『聖闘士星矢』には、原作漫画を読んでいるだけでは分からない設定が数多く存在します。
後から車田正美氏自身が明かした真相や、当時の設定資料にだけ掲載された神話、アニメ化によって生まれた意外な設定もありました。
さらに、長年ファンの間で語られてきた「魔鈴=星華説」や「打ち切り説」などもあります。
今回は、そんな『聖闘士星矢』の知られざる裏設定や制作秘話を紹介します。
『聖闘士星矢』は『男坂』のリベンジから生まれた

『聖闘士星矢』誕生の背景には、車田正美氏の前作『男坂』があります。
車田氏にとって『男坂』は「これを描くために漫画家になった」と思うほど思い入れの強い作品でした。
ところが読者アンケートで苦戦し、連載は途中で終了します。
車田氏にとって、初めて読者アンケートで1位を取れなかった作品でもありました。
そして次に始めたのが『聖闘士星矢』です。
車田氏は後年の公式インタビューで、「だったら人気を取ってやろう」という気持ちで『聖闘士星矢』を始めたと明かしています。
つまり、現在では世界的に知られる『聖闘士星矢』は、車田氏にとって漫画家生命をかけたリベンジ作品でもあったのです。
星矢たち100人の少年は全員が異母兄弟だった
アニメ版だけを見ていると、星矢たちはグラード財団に集められた孤児に見えます。
しかし原作には、さらに驚く設定があります。
聖闘士候補として世界各地へ送られた100人の少年は、全員が城戸光政の実子です。
つまり星矢、紫龍、氷河、瞬、一輝だけではありません。
邪武たちを含め、修行へ送り出された少年たちは基本的に異母兄弟ということになります。
なお、一輝と瞬は父親だけでなく母親も同じ兄弟です。
この設定はテレビアニメでは採用されず、城戸光政が集めた孤児という形へ変更されました。
そのため、アニメから『聖闘士星矢』を知った人には特に驚きの大きい設定でしょう。
ちなみに沙織は城戸光政の実子ではないため、「沙織と星矢たちが兄妹」ということにはなりません。
デスマスクは本名ではなかった
蟹座の黄金聖闘士として登場するデスマスク。
いかにも悪役らしい名前ですが、実はこれが本名だとは明かされていません。
巨蟹宮には、彼によって命を落とした人々の顔が無数に浮かんでいます。
そこから「デスマスク」と呼ばれるようになったと説明されています。
では本当の名前は何なのでしょうか。
実は現在まで、原作漫画で本名は明らかになっていません。
そのためデスマスクは、黄金聖闘士の中でも本名そのものが謎として残っている人物です。
ファンの間ではさまざまな本名候補も語られてきましたが、公式に確定したものとして扱える名前はありません。
氷河の師匠はミロになる予定だった

氷河の師匠といえば、水瓶座の黄金聖闘士カミュです。
ところが連載途中までは、蠍座のミロが師匠になる予定だったとされています。
実際に週刊少年ジャンプ掲載版では、氷河の母が眠る船を海底へ沈めた人物が蠍座の聖衣らしいシルエットで描かれていました。
さらに十二宮編でも、氷河が「師」と呼ぶ人物のシルエットが蠍座になっていたとされています。
ところが次の展開で登場したのは、水瓶座のカミュでした。
コミックスでは問題のシルエットも水瓶座のものへ描き直されています。
車田氏自身も、当初はミロを氷河の師匠にするつもりだったという趣旨の発言を残しています。
もし変更されていなければ、天蠍宮での氷河とミロの戦いは、師弟対決になっていたわけです。
アニメでは氷河に別の師匠が作られてしまった
氷河の師匠をめぐる混乱は、原作だけではありません。
テレビアニメでは、原作に先行して「水晶聖闘士」というオリジナルキャラクターが登場しました。
そして水晶聖闘士が、氷河の師匠として描かれます。
ところが、その後原作でカミュが氷河の師匠として登場しました。
これでは原作とアニメで師匠が違ってしまいます。
そこでアニメでは、
カミュ
↓
水晶聖闘士
↓
氷河
という師弟関係に変更されました。
氷河にとってカミュは「師匠の師匠」という形にして、原作との矛盾をできるだけ小さくしたのです。
原作が連載中の段階でテレビアニメが始まったからこそ生まれた、少し複雑な裏事情でした。
教皇アーレスはアニメ独自の設定だった
テレビアニメ初期には、「教皇アーレス」という人物が登場します。
東映アニメーションの公式あらすじでも、温厚だった教皇が亡くなり、その弟アーレスが後を継いだと説明されています。
ところが原作が進むと、教皇をめぐる真相が判明します。
教皇の座を奪っていた人物は双子座のサガでした。
そこでアニメ側は、すでに登場させていたアーレスとサガをつなげなければならなくなります。
アニメ関連の設定では、本物のアーレスが存在し、サガがその人物に成り代わっていたという非常に複雑な形で整理されました。
アニメ化が原作に追いつきそうになったことで独自展開が増え、その後の原作設定との辻褄合わせが必要になった代表例です。
聖衣はムー大陸で作られた
聖闘士の象徴ともいえる聖衣ですが、誰が作ったのかは原作本編では詳しく描かれていません。
1988年に発売された設定資料『聖闘士星矢コスモスペシャル』の「大聖戦史」では、その起源について細かな設定が用意されました。
それによると、聖衣はムー大陸の錬金術師たちによって作られたとされています。
海皇ポセイドンの海闘士が身につける鱗衣に対抗するため、アテナ側にも防具が必要になったことが誕生のきっかけです。
材料には、
オリハルコン
ガマニオン
銀星砂
という特殊な物質が使われたとされています。
ムー大陸が失われたことで製造や修復の技術もほとんど失われ、その技術を受け継ぐ人物として牡羊座のムウが登場するという設定につながっています。
ただし、これは原作漫画で直接説明された設定ではなく、当時の公式設定資料で展開された「聖闘士星矢の神話」として考えるのがよいでしょう。
88個の聖衣のうち4個は正体が分からない
聖闘士は天空に輝く88星座を守護星座としているため、「聖衣も88個ある」と考えるのが自然です。
ところが『コスモスペシャル』の設定には、奇妙な数字があります。
黄金聖衣は12。
白銀聖衣は24。
青銅聖衣は48。
合計すると84です。
つまり88から4つ足りません。
この残り4つについて、同資料では正体が明かされていません。
そのためファンの間では、
「特別な階級の聖衣なのでは?」
「アレスと関係しているのでは?」
など、さまざまな説が生まれました。
ただし、残り4つの正体について公式に確定した説明があるわけではありません。
また後年の関連作品では青銅聖衣の数そのものが異なる場合もあるため、現在のシリーズすべてに共通する設定と断定しない方がよいでしょう。
それでも「公式資料の数字を足すと4つ足りない」という事実は、『聖闘士星矢』に残された面白い謎のひとつです。
天秤座の武器はアレス軍との戦いで解禁された
天秤座の聖衣には、剣や槍、盾など12個の武器が収められています。
しかし聖闘士は基本的に武器を使いません。
アテナが武器を嫌っているため、使用を許可できるのは天秤座の聖闘士だけという特別な設定があります。
では、なぜ天秤座だけ大量の武器を持っているのでしょうか。
『コスモスペシャル』で紹介された神話では、戦神アレスが「狂闘士」と呼ばれる戦士たちを率いてアテナ軍へ攻め込んだ過去が語られています。
狂闘士は「炎」「火」「恐怖」「災難」の4軍団からなり、当時活動していた58人の聖闘士だけでは苦戦したとされています。
そこでアテナが特別に、天秤座の武器を使うことを許可したというのです。
つまり設定資料上では、天秤座の武器が初めて本格的に解禁された相手は、ポセイドン軍でもハーデス軍でもなくアレスの狂闘士だったことになります。
原作本編には狂闘士が登場しなかったため、知る人ぞ知る神話設定です。
サガの悪の人格には別の正体があった

双子座のサガといえば、善良な人格と邪悪な人格を持つ人物として描かれてきました。
長い間、「サガは二重人格だった」と考えていた読者も多いでしょう。
しかし連載終了から長い年月がたった2018年、車田正美氏自身による『聖闘士星矢 ORIGIN』が発表されました。
この作品ではサガとカノンの過去が描かれ、「第三の双子座」という新たな存在が登場します。
そこで明かされたのが邪霊レムールです。
レムールは女神ケールによって送り込まれ、赤ん坊だったサガに取りついた存在とされています。
そして後に、サガの「悪の人格」のように振る舞っていました。
つまり後年の公式作品によって、サガの異変は単純な二重人格とは違う形で説明されるようになったのです。
ただし、これは1980年代の原作連載時に説明されていた設定ではありません。
車田氏が後年に描いた作品によって追加された真相として見る必要があります。
黄金聖闘士には13人目が存在した
黄金聖闘士といえば、黄道十二星座に対応した12人です。
牡羊座から魚座まで十二宮を守っているため、長年「黄金聖闘士は12人」が当たり前でした。
ところが車田正美氏による『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』で、この常識を覆す存在が登場します。
蛇遣座の黄金聖闘士です。
秋田書店も公式に「聖域最大の禁忌・13番目の黄金」と紹介しています。
神話の時代には蛇遣座の黄金聖闘士が存在していたものの、その存在自体が封印されていました。
黄道十二宮を基本にしてきた『聖闘士星矢』に、後から「13番目」が加わったわけです。
なお蛇遣座自体は、原作初期からシャイナの守護星座として登場しています。
同じ蛇遣座が後年、黄金聖闘士最大級の秘密へつながった点も興味深いところでしょう。
「魔鈴=星華説」は公式に否定された
『聖闘士星矢』連載中、非常に有名だった考察があります。
「魔鈴の正体は、星矢の姉・星華なのではないか?」
という説です。
魔鈴は日本人で、幼いころに離れた弟を探していました。
星矢も日本人で、生き別れた姉の星華を探しています。
さらに作中でも、魔鈴が星華なのではないかと思わせる場面が何度も描かれました。
そのため、多くの読者が「最後に魔鈴が仮面を外し、星華だと判明するのでは」と予想していました。
ところが冥王ハーデス編終盤で、本物の星華が登場します。
しかも星華を見つけ出した人物が魔鈴でした。
これによって「魔鈴=星華説」は完全に否定されます。
一方で、
「最初は魔鈴を星華にする予定だったのではないか」
という説も現在まで語られています。
確かにそう思わせる描写は多いのですが、車田正美氏が「途中で設定を変更した」と明言した一次資料は確認できません。
そのため、同一人物説が読者の間で非常に有力だったことと、「作者が途中で変更した」という説は分けて考えた方がよいでしょう。
魔鈴の設定から「記憶喪失」が消えた
魔鈴と星華をめぐっては、さらに不思議な変更があります。
連載時の資料では、魔鈴について「記憶喪失の日本人女性」と受け取れる設定が存在しました。
ところが本物の星華が登場し、魔鈴とは別人だと確定します。
それにともない、コミックスでは魔鈴の「記憶喪失」に関する記述が削除されたとされています。
もし魔鈴が記憶を失った日本人で、弟を探しているという設定のままなら、星華との共通点はさらに増えてしまいます。
この変更があることから、
「やはり途中まで魔鈴=星華を考えていたのでは?」
という考察が現在まで残っています。
ただし前述した通り、車田氏本人が設定変更を認めたわけではありません。
事実として確認できる変更と、そこから生まれた考察は分けておく必要があります。
『聖闘士星矢』は本当に打ち切りだったのか
『聖闘士星矢』について、現在でもよく語られるのが「ジャンプで打ち切られた」という話です。
この説が広まった理由は、週刊少年ジャンプでの終わり方にあります。
冥王ハーデス編の最終局面にもかかわらず、1990年11月にジャンプ本誌での連載が終了しました。
しかも物語が完全に終わった形ではありません。
そのため当時の読者が「突然終わった」と感じたのも無理はありませんでした。
しかし『聖闘士星矢』には、その続きがあります。
同年創刊されたVジャンプに「完結編」が掲載され、さらにコミックス最終巻では加筆も行われました。
そのため、
「週刊少年ジャンプでは途中のような形で終了した」
「続きはVジャンプで描かれた」
というところまでは確認できます。
一方で、
「人気が落ちたため編集部から強制的に打ち切られた」
という細かな経緯については、今回確認した範囲では車田正美氏本人による明確な一次資料を確認できませんでした。
『男坂』については車田氏自身が「人気がなくて打ち切りになった」とはっきり語っていますが、『聖闘士星矢』については同じような本人発言を確認できない点にも注意が必要です。
したがって「聖闘士星矢は打ち切りだった」と一言で断定するよりも、「ジャンプ本誌では最終局面の途中で終了し、Vジャンプで完結した」と説明する方が正確でしょう。
聖闘士星矢の裏設定まとめ
『聖闘士星矢』は、原作が完結してからも設定が広がり続けている作品です。
サガの悪の人格や13番目の黄金聖闘士のように、何十年も後になって車田正美氏自身が新たな答えを描いた謎もあります。
一方で、88個の聖衣の残り4つやデスマスクの本名など、現在でもはっきりしていない部分も残されています。
また、氷河の師匠や教皇アーレスのように、週刊連載とテレビアニメが同時進行だったからこそ生まれた設定変更も見逃せません。
「魔鈴=星華説」のように、読者の予想を逆手に取ったような謎も『聖闘士星矢』のおもしろさのひとつでしょう。
公式に明かされた設定と、長年語られてきた考察を分けて見ていくと、一度読んだ物語にも新しい発見があります。





















