『僕のヒーローアカデミア』には、アニメや漫画を見ているだけでは分からない制作上の裏設定が数多く存在します。
実は緑谷出久には「個性を持たずに道具だけで戦う」という構想があり、爆豪勝己も現在とは正反対に近い性格でした。
ほかにも、蛙吹梅雨が男性として考えられていた話や、劇場版に「原作の最終決戦で使う予定だった案」が使われているなど、完成作品からは想像しにくい事実があります。
今回は堀越耕平氏のインタビューや単行本の設定資料などをもとに、『僕のヒーローアカデミア』の意外な裏設定や制作秘話を紹介します。
一部に物語終盤の内容も含まれているため、ネタバレには注意してください。

「個性」と呼ばれる超能力が当たり前の世界を舞台に、ヒーローを目指す少年・緑谷出久の成長と仲間たちとの熱い戦いを描いた大人気コミック。
笑いあり、涙ありの王道ヒーロー物語を最終巻まで楽しめる、全42巻セットです。
原型作品の主人公は高校生ではなく会社員だった

『僕のヒーローアカデミア』には、連載開始より前に描かれた読切『僕のヒーロー』という原型作品があります。
現在のデクと同じ「緑谷」という名字を持つ主人公が登場しますが、この時点では雄英高校もヒーロー科もありません。
主人公は、ヒーロー用品を扱う会社で働く会社員として描かれていました。
堀越耕平氏は、社会人経験がほとんどない自分が会社員を主人公にして少年漫画を描くことに難しさを感じたと説明しています。
そこで「自分はヒーロー作品の何にワクワクするのか」と考え直しました。
その答えが、「完成したヒーロー」ではなく「ヒーローになるまでの過程」だったそうです。
こうして主人公の年齢が下がり、ヒーローを目指す少年たちが学校で学ぶ現在の形へ変化していきました。
つまり雄英高校という作品を代表する舞台は、最初から存在していたわけではなかったのです。
デクは「無個性のまま道具で戦う主人公」になる案があった
会社員だった原型主人公から現在の緑谷出久へ変わる途中には、さらに別のデクが存在しました。
初期構想で作られていたのが、「赤谷海雲(あかたに みくも)」という少年です。
髪は現在のデクより長く、前髪で片目が隠れた少し暗い雰囲気のデザインでした。
さらに大きな違いが、特別な能力を持っていなかったことです。
赤谷海雲は強力な個性を受け継ぐのではなく、道具や工夫を使いながらヒーローを目指す構想だったとされています。
しかし編集側から、主人公にも特別な力を持たせたほうが少年漫画の中で目立つという意見があり、現在のワン・フォー・オールにつながる方向へ変更されました。
興味深いのは、最終的なデクが雄英卒業後、再び無個性となったことです。
そしてオールマイトから受け取った特殊なアーマーを使い、ヒーロー活動へ復帰しています。
アニメ公式サイトでも、デクの個性は「無個性⇒ワン・フォー・オール⇒無個性」と紹介されています。
結果だけを見ると、物語の最後で「能力を持たず、道具によってヒーローになる」という初期構想に近い姿へ戻ってきたとも考えられます。
偶然なのか、初期案を意識したものなのかについて、堀越氏から明確な説明はありません。
それでも初期設定を知ったうえで最終回を見ると、かなり意味深な共通点です。
爆豪勝己は爽やかな”天然系”才能マンになる予定だった
現在の爆豪勝己といえば、非常に攻撃的でプライドが高く、初期にはデクへ強い態度を取っていました。
ところが連載前の構想では、性格が大きく違います。
初期の爆豪は何でも簡単にできる天才ですが、本人には悪意がなく、思ったことをそのまま口にしてしまう天然系の人物として考えられていました。
本人は普通に話しているつもりなのに、結果的に相手をイラッとさせてしまうタイプです。
堀越耕平氏も、当初の爆豪は現在のような攻撃的な性格ではなく、デクが一方的に爆豪を追いかけていく関係を考えていたと明かしています。
しかし、そのままではキャラクターとして弱いと判断され、現在の強烈な性格へ変更されました。
さらに連載開始後も、爆豪はもっと長い間「嫌な人物」として描かれる予定だったそうです。
ところがデクとの戦闘訓練で爆豪が涙を見せた場面を描いたことで、堀越氏自身が「きちんと描けば良い部分を出せる人物なのではないか」と感じ始めました。
爆豪は連載前だけでなく、連載が始まってからも作者の中で人物像が変化していったキャラクターなのです。
爆豪がヴィラン側に寝返るという有名な「闇落ち」説は作者が明確に否定
爆豪については、ファンの間で非常に有名になった説があります。
それが「いつか爆豪はヴィラン側へ行くのではないか」という考察です。
特に林間合宿後に爆豪が連れ去られた時期には、この説が急速に広まりました。
爆豪はヒーロー側の人物でありながら言葉が荒く、強さへの強い執着も持っています。
そのため「敵側へ誘われ、そのまま寝返るのではないか」と考える読者が少なくありませんでした。
しかし、この説は堀越耕平氏本人によって否定されています。
堀越氏は、爆豪を最初から闇落ちさせるつもりはなかったと明言しています。
さらに、そのような予想が広がっていることを知ったため、むしろ「そうならない」と作品内ではっきり示そうと考えたそうです。
つまり爆豪のヴィラン化は、作者が隠していた予定ではなく、読者側から生まれた有名な考察でした。
ファンの予想を作者自身が知り、その予想を意識して描写したという意味では、興味深い制作秘話です。
蛙吹梅雨と葉隠透はもともと男性だった
1年A組の女性キャラクターにも意外な初期設定があります。
蛙吹梅雨と葉隠透は、どちらも最初は男性キャラクターとして考えられていました。
しかしキャラクターを作っていくうちに、1年A組の女子生徒が少ないことが問題になりました。
そこで梅雨と葉隠を女性へ変更したのです。
この設定は単行本第2巻に掲載されたキャラクター設定でも紹介されています。
特に梅雨については、初期デザインでは現在より人間に近い顔をしており、性格も少し暗めに考えられていました。
そこから現在の落ち着いていて率直な梅雨へ変化しています。
さらに堀越氏は、梅雨がこれほど人気になるとは予想していなかったことも明かしています。
男性から女性への変更を含め、制作途中で大きく姿を変えたキャラクターのひとりです。
お茶子の原型はMt.レディとつながっていた
麗日お茶子にも、現在とは大きく違う構想がありました。
初期設定では「岳山優(たけやま ゆう)」という女性キャラクターがヒロイン候補として考えられており、巨大化する能力を持っていました。
しかし、巨大化という能力を主要人物として何度も使わせるのは扱いが難しかったため、この構想は変更されます。
その結果、ヒロインには物体を無重力状態にする麗日お茶子が誕生しました。
一方で「岳山優」という名前と巨大化能力は捨てられませんでした。
別キャラクターとして再利用されたのが、プロヒーローのMt.レディです。
つまり現在ではまったく別人に見えるお茶子とMt.レディですが、制作段階をたどると同じ初期案から枝分かれしたキャラクターだったのです。
ヒロアカでは、没になったアイデアを完全に捨てるのではなく、別の人物へ受け継がせる例がいくつもあります。
オールマイトの名前は「ヴィクトリー」だった

オールマイトにも、現在とは違う名前がありました。
初期段階では「ヴィクトリー」という名前で考えられていたのです。
現在のオールマイトには、頭の上へ大きく伸びた特徴的な2本の髪があります。
実はこの形も、ヴィクトリー時代の名残です。
堀越耕平氏によると、この髪は「Victory」の頭文字である「V」を表したデザインでした。
名前がオールマイトへ変更されたあとも、力強く見えることから髪のデザインだけは残されたそうです。
現在ではデクのヒーローコスチュームにも、この2本の髪を思わせるデザインが取り入れられています。
作品を代表するシルエットのひとつが、実は使われなかった名前の名残だったのです。
デクの「緑」は主人公らしくない色として選ばれた
緑谷出久の名前にも、堀越耕平氏ならではの考え方が隠されています。
堀越氏によると、「緑」という色には「主役になれない色」という印象を持っていたそうです。
そこで最初から華やかな主人公ではなく、地味で目立たない人物を作るために「緑谷」という名字を使いました。
さらに、オールマイトのデザインには緑色が入っていないことも理由のひとつだったと語っています。
物語では、誰よりも目立たないところから始まった少年が、次第に多くの人から認められる存在へ成長していきます。
そう考えると「主人公らしくない色」をあえて主人公へ与えたこと自体が、デクの物語を表しているようにも見えます。
地名の多くは『スター・ウォーズ』から付けられている
ヒロアカの街や施設の名前をよく見ると、不思議な名称が多いことに気づきます。
これは偶然ではありません。
堀越耕平氏は『スター・ウォーズ』から大きな影響を受けており、作中の地名には同シリーズの惑星名をもじった名前が多数使われています。
たとえば第1話に登場する「田等院」は、惑星タトゥイーンが元ネタです。
「保須」はホス、「結田府」はムスタファーが元になっています。
堀越氏自身も地名について、『スター・ウォーズ』をもじって自分が楽しく描くために入れていると説明しています。
さらに影響は地名だけではありません。
堀越氏は、人間関係や師弟関係を描くうえでも『スター・ウォーズ』から強い影響を受けていると話しています。
オールマイトとデクをはじめ、ヒロアカに数多く登場する「力や意志を次の世代へ渡していく関係」にも、その影響を見ることができます。
「Plus Ultra」はスタン・リーの言葉を意識していた
雄英高校を象徴する言葉が「Plus Ultra(プルス・ウルトラ)」です。
日本語では「さらに向こうへ」という意味で使われています。
この言葉についても、アメリカンコミックとの意外な関係があります。
マーベル作品で知られるスタン・リー氏は、「Excelsior!」という言葉を長年使っていました。
堀越耕平氏によると、雄英の校訓を作った直接の理由が「Excelsior!」だったわけではありません。
ただし、言葉が持つ雰囲気については「Excelsior!のような感じにしたかった」と説明しています。
つまり「Plus Ultra」は単純な引用ではありませんが、アメコミ文化への敬意が込められた言葉でもあるのです。
オールマイトのデザインだけでなく、作品を代表する掛け声にも堀越氏のアメコミ好きが表れています。
梅雨とトガは読者人気によって出番が変わった
長期連載漫画では、最初にすべての人物の活躍が決められているとは限りません。
ヒロアカでも、読者の反応によって扱いが変わったキャラクターがいます。
堀越耕平氏が名前を挙げているのが、蛙吹梅雨とトガヒミコです。
主要人物については最終的な着地点をある程度決めていたものの、この2人については登場後の読者からの反響によって、その後の登場のさせ方が変化したと明かしています。
特に梅雨は作者の予想以上に人気を集めました。
一方のトガも、物語が進むにつれてヴィラン側を代表する重要人物のひとりになっていきます。
作者が一方的にすべてを決めるのではなく、連載中の読者の反応が作品へ少なからず影響していたわけです。
アニメ化によって漫画のセリフまで変化した
アニメ化は原作漫画を映像にするだけではありませんでした。
アニメでキャラクターに声が付いたことで、堀越耕平氏自身の漫画の描き方にも変化が起きています。
堀越氏はアニメ化後、漫画を描いている時にも声優の声を頭の中で想像できるようになったと語っています。
そのため、「このキャラクターなら、このようなニュアンスで話すだろう」と考えながらセリフを書くようになったそうです。
つまりアニメ版は原作をもとに作られていますが、そのアニメが逆に原作へ影響を返していたことになります。
長期シリーズならではの面白い関係です。
原作とアニメが完全に別々に作られているわけではなく、お互いに影響しながらキャラクター像が完成していったことが分かります。
劇場版第2作には本来「原作の最後」で使う案が使われた
ヒロアカの制作秘話の中でも、特に有名なのが劇場版第2作『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ヒーローズ:ライジング』です。

雄英高校ヒーロー科1年A組の生徒たちが、離島でのヒーロー活動に挑む劇場版第2作。
強大な敵を前に、デクや爆豪をはじめ仲間たちが力を合わせて立ち向かう、迫力のバトルと熱い友情が楽しめる作品です。
この作品では、デクと爆豪を中心に非常に大きな展開が描かれます。
実は、そのアイデアには特別な理由がありました。
堀越耕平氏は公開当時、この映画について「ある種ヒロアカ最終回とも言える」と説明しています。
その理由は、原作の最終決戦でやりたいと思っていたアイデアのひとつを、映画で使ったからでした。
つまり『ヒーローズ:ライジング』の終盤には、本来なら漫画版の最後に登場していた可能性がある展開が含まれています。
その後、漫画の最終決戦は映画とは違う形で描かれました。
結果として劇場版第2作は、「もうひとつのヒロアカ最終決戦」とも呼べる特別な作品になったのです。
最終話まで知ったあとに映画を見直すと、「こちらが原作の最後になる可能性もあったのか」と違った見方ができます。
ヒロアカの裏設定まとめ

『僕のヒーローアカデミア』は、完成した設定を最初から最後までそのまま描いた作品ではありません。
会社員だった主人公は高校生になり、さらに「無個性のまま道具で戦う」という構想を経て、ワン・フォー・オールを受け継ぐ緑谷出久になりました。
爆豪勝己も爽やかな天然天才から攻撃的なライバルへ変わり、蛙吹梅雨と葉隠透は男性から女性へ変更されています。
オールマイトの髪型に没になった名前の名残が残っていたり、地名に『スター・ウォーズ』の惑星名が隠れていたりと、細かな部分にも制作時の遊び心が詰め込まれています。
また、「爆豪がヴィラン側へ行く」という有名な考察を作者自身が否定していたり、読者人気によって一部キャラクターの登場の仕方が変わったりするなど、連載中のファンとの関係も作品へ影響していました。
中でも興味深いのは、デクの初期案です。
「特別な能力を持たず、道具を使ってヒーローになる」という構想は一度捨てられました。
しかし物語の最後では、無個性となったデクが特殊なアーマーを身につけ、再びヒーローとして活動しています。
これが初期構想を意識したものなのかについて公式な説明はありません。
それでも連載前の幻のデクを知っていると、物語の始まりと終わりが不思議につながって見える、非常に興味深い裏設定ですね。

「個性」と呼ばれる超能力が当たり前の世界を舞台に、ヒーローを目指す少年・緑谷出久の成長と仲間たちとの熱い戦いを描いた大人気コミック。
笑いあり、涙ありの王道ヒーロー物語を最終巻まで楽しめる、全42巻セットです。





















