1982年に放送されたアニメ『スペースコブラ』は、寺沢武一氏の漫画『コブラ』を原作とするSFアニメです。
左腕のサイコガンやアーマロイド・レディ、宿敵クリスタル・ボーイなど、今見ても強烈な個性を持つキャラクターがそろっています。
しかし、『コブラ』には本編を見ているだけではわからない制作秘話や、後年になって明かされた設定が数多く存在します。
今回は、寺沢武一氏の発言や公式資料、アニメの制作記録などをもとに、『スペースコブラ』の知られざる裏設定を紹介します。
コブラの顔には実在するフランス人俳優のモデルがいる

コブラといえば、金髪に丸みのある鼻、少し垂れた目、そしていつも余裕のある笑顔が特徴です。
実は、この独特な顔にはモデルになった人物がいるとされています。
その人物が、フランスを代表する俳優ジャン=ポール・ベルモンドです。
寺沢武一氏がベルモンドのファンだったことは知られており、コブラのモデルとしてベルモンドを参考にしたことも報じられています。
ベルモンドは、いわゆる正統派の美男子とは少し違う個性的な顔立ちを持ちながら、軽口をたたきつつ危険な場面へ飛び込んでいく役を得意としていました。
この「三枚目に見えるのに、とてつもなく格好いい」という魅力は、まさにコブラそのものです。
コブラが一般的な漫画のヒーローとは違った顔をしているのも、寺沢武一氏が最初から独特な格好良さを狙っていたためなのでしょう。
「コブラはルパン三世がモデル」という説は少し違う
コブラについて昔から語られているのが、「ルパン三世を宇宙海賊にしたキャラクターなのではないか」という説です。
確かに、女性に弱い、軽口が多い、危険な状況でも余裕を失わない、決まった組織に属さず自由に行動するといった共通点があります。
さらにアニメ版は『ルパン三世』と同じ東京ムービー新社が制作しているため、両作品を結びつけて考える人がいても不思議ではありません。
しかし、コブラについて確認できる明確なモデルはジャン=ポール・ベルモンドです。
一方、モンキー・パンチ氏もベルモンド主演の映画『リオの男』を『ルパン三世』の参考にしたと語っています。
つまり、コブラがルパンをそのまま参考にしたというより、両者のルーツにベルモンド的なヒーロー像が存在していると考えたほうが自然です。
似ている部分があること自体は確かですが、「コブラ=宇宙版ルパン」という説明だけでは寺沢武一氏独自のキャラクター作りを説明しきれません。
サイコガンの発想源は『座頭市』の仕込み杖
コブラを象徴する武器といえば、左腕に隠された「サイコガン」です。
未来的なデザインから、海外のSF映画などを参考にして生まれたようにも見えます。
しかし寺沢武一氏が発想のヒントにしたのは、意外にも日本の時代劇『座頭市』に登場する「仕込み杖」でした。
仕込み杖は、普段は普通の杖に見えますが、必要なときには内部に隠された刀が現れます。
コブラも普段はサイコガンの上から精巧な義手を装着しており、戦うときに義手を外して武器を露出させます。
「普通のものに見せかけて、本当の武器を内部に隠しておく」という仕組みを、寺沢武一氏がSFの世界へ置き換えたわけです。
さらに後のエピソード『神の瞳』では、サイコガンを設計した人物が日本人の銃職人「不知火鉄心」だったことも明かされています。
サイコガンに問題が起きたコブラが、修理できる人物を求めて地球の日本を訪れるという展開になっています。
未来の宇宙を代表する武器でありながら、発想の原点が日本の時代劇で、さらに設定上の製作者まで日本人だったというのは面白いところです。
また、サイコガンは普通の銃のように弾を撃つ武器ではありません。
コブラの精神力をエネルギーに変えて放つため、狙いも単純な照準だけではなく、コブラ自身の意志と強く結びついています。
だからこそサイコガンは「誰が使っても同じ強さの武器」ではなく、コブラという人物そのものを表す武器になっているのでしょう。
『スペースコブラ』の音楽は後に評価が高騰した
『スペースコブラ』が現在まで高く評価されている理由のひとつが、作品全体を包む音楽です。
特に有名なのが、前野曜子氏が歌ったオープニングテーマ「コブラ」と、エンディングテーマ「シークレット・デザイアー」です。
この2曲の作曲・編曲を担当したのは、『ルパン三世』の音楽でも知られる大野雄二氏でした。
当時のアニメ主題歌には、作品名や主人公の名前を力強く歌うタイプの曲が多くありました。
ところが「コブラ」は、ジャズやファンクを思わせる都会的な演奏に、前野曜子氏の大人びた歌声を組み合わせています。
さらに「シークレット・デザイアー」は、より落ち着いたジャズの雰囲気を持つ曲になっていました。
子ども向けアニメの主題歌というより、ハードボイルド映画の音楽に近い作りだったのです。
そして、テレビシリーズの劇中音楽を担当したのは羽田健太郎氏でした。
つまり『スペースコブラ』では、主題歌を大野雄二氏、物語の中で流れるBGMを羽田健太郎氏が担当するという豪華な組み合わせが実現していました。
この音楽は放送終了後も忘れられませんでした。
1982年に発売されたオリジナル・サウンドトラックは、2003年に日本コロムビアの「ANIMEX1200」シリーズで初CD化されています。
さらに翌2004年には、未発表音源なども収録した2枚組の『スペースコブラ コンプリート・サウンドトラック』まで発売されました。
主題歌「コブラ」も、後年発売された数多くの「懐かしのアニメソング」「昭和アニメ名曲」といったベストアルバムへ繰り返し収録されています。
放送から40年以上が経過しても音源が再発売され、名曲集にも選ばれ続けていることから、その人気の長さがよくわかります。
『スペースコブラ』独特の「大人っぽく、少し危険で、それでも格好いい」という雰囲気は、コブラというキャラクターや出崎統氏の映像だけで生まれたものではありません。
大野雄二氏と羽田健太郎氏による音楽もまた、作品の世界観を完成させた重要な要素だったのです。
クリスタル・ボーイは連載開始前から存在していた
コブラ最大の宿敵として知られるクリスタル・ボーイですが、実は週刊連載が始まってから考えられたキャラクターではありません。
『コブラ』の連載開始前に発表された初期短編に、すでにクリスタル・ボーイが登場していました。
しかも、その作品は長い間単行本に収録されていなかったため、ごく一部の読者しか知らない幻に近いエピソードとなっていました。
2019年発売の『コブラ大解剖』新装版では、この連載前の初期作品が収録されています。
つまりクリスタル・ボーイは、人気が出たから後から作られたライバルではありません。
寺沢武一氏が『コブラ』という作品を作り上げるかなり早い段階から、コブラと対になる存在として考えられていたことになります。
透明な体の内部に黄金色の骨格が見えるデザインも含め、作品の最初期から寺沢氏のSF世界の中心にいたキャラクターだったのです。
週刊少年ジャンプなのに「描きため」で連載していた
『コブラ』の絵を見ると、宇宙船や機械、異星の都市、女性キャラクターなどが非常に細かく描かれています。
当時の週刊漫画としては、かなり手間のかかった作画でした。
そのため寺沢武一氏は、一般的な週刊連載とは少し違った制作方法を取っていたとされています。
一定期間作品を掲載したあとに休載期間を設け、その間に原稿を描きためるという方式です。
当時の『週刊少年ジャンプ』では珍しい形だったと報じられています。
毎週ギリギリまで原稿を描くという一般的な週刊連載のイメージとはかなり違います。
それだけ『コブラ』では、一枚の絵としての完成度が重要視されていたのでしょう。
後に寺沢武一氏が漫画制作へコンピューターを積極的に取り入れていったことを考えても、「漫画の絵そのものを進化させたい」という考えを早い時期から持っていたことがわかります。
アニメ版は原作をそのまま動かした作品ではなかった
『スペースコブラ』は原作漫画をアニメ化した作品ですが、雰囲気まで完全に原作と同じというわけではありません。
アニメ版では出崎統氏や竹内啓雄氏がチーフディレクターを務め、止め絵などを使った独特の映像演出が加えられました。
さらに羽田健太郎氏によるジャズ色の強い音楽と、野沢那智氏の渋い演技が組み合わされています。
その結果、原作が持っていたSF冒険活劇に、ハードボイルド映画のような大人の雰囲気がさらに強く加わりました。
現在では「コブラといえば野沢那智氏の声」という印象を持つファンも少なくありません。
しかし、それは原作だけで完成したイメージではなく、寺沢武一氏の世界と出崎統氏たちの演出が合わさって作られた「アニメ版のコブラ」でもあるのです。
劇場版とテレビ版ではコブラの声がまったく違う
1982年には、テレビ版『スペースコブラ』より先に劇場版『スペースアドベンチャー コブラ』が公開されています。
劇場版でコブラを演じたのは、野沢那智氏ではありません。
歌手・俳優として知られる松崎しげる氏でした。
劇場版は1982年夏に公開され、テレビ版は同年10月から放送されています。
テレビ版になるとコブラ役は野沢那智氏に変更され、クリスタル・ボーイなど主要人物の声も変わりました。
一方でアーマロイド・レディ役の榊原良子氏は、劇場版とテレビ版の両方に出演しています。
同じ1982年に同じ出崎統氏が関わった作品でありながら、劇場版とテレビ版は単純につながっているわけではありません。
それぞれ別の解釈による『コブラ』として作られている点は、意外と知られていない部分です。
レディは最初から機械の体だったわけではない

1982年版『スペースコブラ』だけを見ていると、アーマロイド・レディの過去について詳しく知ることはできません。
そのため、「レディはどこで生まれたのか」「なぜコブラと一緒にいるのか」といった部分は長い間大きな謎でした。
後年、その答えが『COBRA THE ANIMATION タイム・ドライブ』で描かれています。
レディはもともと人間の女性であり、名前はエメラルダでした。
しかも、サンボーン公国の王女という立場にあった人物です。
物語では約20年前へ移動し、顔を変える前の若いコブラと、人間だった時代のレディとの出会いが描かれています。
つまり1982年のアニメで長年一緒に旅をしていた二人には、視聴者が知らない長い歴史が存在していたわけです。
単なる「宇宙海賊とその助手」ではなく、二人の強い信頼関係にははっきりとした過去が用意されていました。
寺沢武一氏は後年のアニメで監督まで務めている
漫画家が自分の作品のアニメ化に監修として参加することは珍しくありません。
しかし寺沢武一氏の場合、それ以上に深くアニメ制作へ入り込んでいます。
2008年に始まった『COBRA THE ANIMATION』第1弾『ザ・サイコガン』では、寺沢武一氏自身が原作だけでなく、監督・脚本・絵コンテまで担当しました。
つまり「原作者がアニメスタッフに希望を伝えた」という程度ではありません。
映像としてコブラをどう動かし、どのように物語を見せるのかという部分まで寺沢武一氏自身が直接決めていたのです。
連載開始から約30年が経過してから、作者自身の手によって映像版『コブラ』が作られたことになります。
1982年の出崎統氏による『スペースコブラ』と見比べると、同じ原作でも演出の違いがよくわかります。
クリスタル・ボーイのCGにはわざと「手描き感」を残した
透明な体を持つクリスタル・ボーイは、CGとの相性が非常に良さそうなキャラクターです。
実際、後年のアニメではCG技術を使うことで、透明な体をより立体的に表現できるようになりました。
ところが寺沢武一氏は、単にリアルなCGへ変えることを望んだわけではありません。
2008年の新作アニメについて寺沢武一氏は、日本アニメの魅力は手描きによる力強さにあるという考えを語っています。
そしてクリスタル・ボーイについても、CGを使用しながら手描きの感覚が残るよう制作側へ指示したと明かしました。
最新技術を積極的に使う一方で、昔の漫画やアニメらしい線の魅力は失いたくなかったのでしょう。
デジタル技術の先駆者として知られる寺沢武一氏らしい、非常に興味深いこだわりです。
実現しなかった「幻の新作コブラ」が存在する
『コブラ』のアニメには、企画されながら完成しなかった作品も存在します。
2020年に発売された『スペースコブラ COMPLETE DVD BOOK』では、作画監督を務めた杉野昭夫氏へのインタビューとともに、実現しなかった新作『コブラ』用の設定画が公開されました。
杉野昭夫氏が新作のために準備していたものの、企画そのものが白紙になったと紹介されています。
つまり、私たちが知っている劇場版、1982年テレビ版、OVA、2010年版以外にも、新しい『コブラ』が作られる可能性があったということです。
設定画まで作られていた以上、単なる「いつか作れたらいい」という構想より一歩進んだ企画だったことがわかります。
完成していれば、杉野昭夫氏が再び描く新しいコブラを見ることができたのかもしれません。
スペースコブラの裏設定まとめ

『スペースコブラ』は、単純に原作漫画をアニメ化しただけの作品ではありません。
コブラのモデルになったジャン=ポール・ベルモンド、連載前から存在していたクリスタル・ボーイ、異例だった原作の制作方式など、作品が生まれるまでにも多くの裏話があります。
さらに出崎統氏たちによる1982年版、寺沢武一氏自身が監督した後年のOVAなど、映像化されるたびに少しずつ新しい『コブラ』が作られてきました。
とくにレディの過去は、1982年版だけを知っている視聴者にとってかなり驚く設定ではないでしょうか。
長年あえて語られなかった部分が後の作品で明らかになることで、コブラとレディの関係も違って見えてきます。
何十年たっても新しい発見があることこそ、『コブラ』が現在まで語り継がれている理由のひとつなのかもしれません。





















