『PSYREN -サイレン-』は、赤いテレホンカードを手にした夜科アゲハたちが、荒廃した未来「サイレン世界」の謎を追っていくSFサスペンス漫画です。
未来がなぜ崩壊したのか。
W.I.S.Eはなぜ生まれたのか。
ネメシスQはいったい何者なのか。
物語が進むにつれて多くの謎が明かされますが、漫画全16巻だけでは描かれなかった設定も少なくありません。
特に重要なのが、SOW氏による小説版『PSYREN -サイレン- another call』です。
岩代俊明氏が原作・イラストを担当しており、第2巻では漫画最終話から10年後の世界まで描かれています。
出版社の紹介でも「大団円から10年後」「物語は小説で完結」と紹介されており、漫画で描き切れなかった人物たちのその後を知ることができます。
今回は、本編を読んだだけでは分かりにくい設定、小説版で明かされた過去や後日談、連載中の設定変更、ファンの間で有名になった説などを紹介します。
雨宮桜子の「アビス」は単なる二重人格ではない可能性がある

雨宮桜子の精神世界に存在する、もう一人の雨宮が「アビス」です。
雨宮が追い詰められたときに表へ現れ、本来の雨宮とはまったく違う攻撃的な性格を見せます。
アビスがいるのは、雨宮の精神世界にある「本能と衝動の領域」。
雨宮が心の奥へ押し込めてきた感情と深く関係している存在とされています。
さらに興味深いのは、性格だけでなく得意なPSIまで違うことです。
雨宮がトランスを得意とするのに対し、アビスはバーストを使った攻撃を得意とします。
アビスが表へ出ると雨宮の肌が黒く変化しますが、なぜ精神上の人格交代によって肉体まで変化するのかは、はっきり説明されていません。
そのため、アビスが普通の「別人格」なのか、それとも雨宮のPSIによって生まれた特殊な存在なのかについては謎が残っています。
しかも漫画終了後には、さらに不思議なことが起こります。
小説版第2巻の「YOUNG AND PRETTIES」では、アビスが心鬼紅骨を使わなくても現実世界へ実体化できるようになっています。
アゲハと雨宮のデートにも普通に乱入しており、もはや雨宮の頭の中だけの存在とは言い切れない状態です。
精神世界にあったアビスの住居も、以前の荒れた場所から暮らしやすい部屋へ変わりました。
雨宮が自分自身を受け入れていったことを表しているとも考えられますが、アビスの正体そのものについて最後まで明確な答えは示されていません。
『PSYREN』に残された大きな謎のひとつです。
ラスボス「ミスラ」はもともと普通の女子高生だった

物語終盤で本当の黒幕として姿を現したミスラですが、最初からあの姿・人格だったわけではありません。
その過去は、小説版『PSYREN -サイレン- another call 2』に収録された「星に願いを」で明かされています。
ミスラの肉体は、もともと吹奏楽部に所属していた普通の女子高生のものでした。
学校へ通い、彼女に想いを寄せる男子生徒もいる、ごく普通の生活を送っていた少女です。
しかも当時の一人称は「わたし」で、後のミスラが使う「ボク」とも違っていました。
ところが、ある夜に空から落ちてきたものと関わった頃から、少女の様子が少しずつ変わっていきます。
性格や話し方にも変化が現れ、やがて元の少女とは別の「ミスラ」と呼ばれる存在へ近づいていきました。
ここで注目したいのが、「約束の涙」を手に入れるより前から変化が始まっていたことです。
漫画だけを読むと、ミスラは約束の涙によってクァト・ネヴァスと一体になったようにも見えます。
しかし小説版を見る限り、少女への侵食はそれ以前から始まっていました。
そのため約束の涙は「ミスラを誕生させたもの」ではなく、すでにミスラとなっていた存在がクァト・ネヴァスとさらに深くつながるために必要だったものと考えられます。
さらに未来のミスラは、自分が使っている肉体に限界が近づくと、今度はマリーを新しい器にしようとしていました。
つまり、あの女子高生そのものがミスラだったわけではなく、少女の身体を何者かが「器」として利用していたことになります。
では「ミスラ」とは、元の少女の名前なのでしょうか。
それとも、少女を侵食したクァト・ネヴァス側の存在を指す名前なのでしょうか。
元の少女の名前すら明かされていないため、この部分には最後まで謎が残されています。
普通の女子高生が、いつの間にか世界を裏で操る存在へ変わっていた。
ミスラの過去を知ると、彼女は単なるラスボスではなく、「人間の身体を利用して地球へ入り込んできた存在」だったことがよりはっきり見えてきます。
W.I.S.Eは物語終了後もなくなっていない
漫画の最終決戦が終わったあとも、弥勒とW.I.S.Eの物語は続いています。
小説版第2巻には「陽のあたる場所で」というW.I.S.Eの後日談が収録されています。
歴史が変わった世界では、弥勒は特殊な力を持つ者たちが生きられる場所を作ろうとしていました。
星将たちも弥勒と行動を共にしています。
さらに、その後の10年間にはアゲハたちと何度も再会したようです。
状況によって対立したこともあれば、同じ目的のために協力したこともあったと描かれています。
特に大きいのが弥勒の考え方の変化です。
かつては古い世界そのものを否定し、新しい生命による世界を作ろうとしていました。
しかし10年後には、能力を持つ者と持たない者が「互いの違いを認める」という考えにたどり着いています。
世界を作り変えようとした弥勒が、最終的には違う者同士の共存を選んだことになります。
漫画終了後まで含めて見ると、弥勒にもきちんとした物語の終着点が用意されていたのです。
カブトは戦場カメラマンになり「奇跡の男」と呼ばれる
霧崎兜は、物語開始時には1000万円を目的にサイレンの謎を追っていました。
危険なことを避けようとする性格も目立ちます。
ところが、漫画終了後のカブトは意外な人生を歩んでいます。
叔父の霧崎塔二と同じ戦場カメラマンになりました。
危険を事前に察知する「脅威(メナス)」を持つカブトにとって、ある意味では非常に向いている職業です。
危険な場所へ行っても無事に帰ってくることから、「奇跡の男」と呼ばれるようになります。
楽をして金を手に入れようとしていた少年が、多くの人に現実を伝える仕事を選んだことになります。
本編で描かれたカブトの成長を考えると、かなり納得できる後日談です。
ツンデレのフレデリカには漫画で語られなかった過去がある

天樹院フレデリカが、なぜエルモア・ウッドで暮らすようになったのか。
漫画では詳しく描かれませんが、小説版第1巻の表題作「紅蓮の聖誕」で過去が明かされています。
フレデリカは、もともと貿易商の家に生まれた少女でした。
しかし幼い頃から強力な発火能力を持っており、その力を恐れた家族との関係が壊れてしまいます。
その後、天樹院エルモアに引き取られました。
初期のフレデリカが外の人間を強く警戒していたのも、この経験が影響していると考えられます。
そして気になるのが、成長したフレデリカのアゲハに対する気持ちです。
未来のフレデリカについては、アゲハを内心では慕っているとする資料があります。
最初はアゲハを嫌っていたにもかかわらず、物語が進むにつれて認めるようになり、かなり親しい態度を見せるようになりました。
ただし、マリーのように恋愛感情を分かりやすく表現したわけではありません。
告白する場面もないため「アゲハに恋をしていた」とまでは言えないかもしれませんが、少なくとも「嫌い」から、強く慕う相手へ変化したことは確かです。
恋愛感情があったのかどうかは、あえて読者の想像にまかせた部分とも言えます。
祭と影虎の出会いは小説版で初めて描かれた

八雲祭と雹堂影虎は、本編開始時点ですでにかなり親しい関係です。
祭が影虎に頼み事をし、影虎も文句を言いながら協力する場面が何度も登場します。
しかし漫画では、二人がどうやって知り合ったのかはほとんど説明されません。
その空白を描いたのが、小説版第1巻の「闘う侠」です。
小説版には、
雨宮桜子「キスしてほしい?」
雹堂影虎「闘う侠」
フレデリカ「紅蓮の聖誕」
弥勒「終わらない詩」
という、本編では読めなかった4つの物語が収録されています。
本編で完成されていた祭と影虎の信頼関係にも、漫画では描かれなかった始まりが存在したというわけです。
グリゴリ初期実験体は普通の人間と老化の仕方まで違う
グリゴリ計画には、第一次計画と第二次計画が存在します。
第一次計画では胎児の段階から処置を行い、人工的に強力なサイキッカーを生み出そうとしていました。
その01号が、後にW.I.S.E第一星将となるグラナです。
03号のウラヌスも同じ第一次グリゴリ計画の実験体でした。
そして小説版では、グラナやウラヌスのような初期ナンバーは、普通の人間とは老化の仕方が異なることが明かされています。
特にウラヌスは、実際の年齢と見た目の年齢が一致しません。
つまり第一次グリゴリ計画で行われていた処置は、単純にPSIを強くするだけではなく、人間の身体そのものへ長期的な影響を与えていたことになります。
グリゴリの実験がどれほど異常なものだったのかが分かる設定です。
赤いテレホンカードは本誌と単行本でルールが違う
サイレンゲームの参加者が持つ赤いテレホンカードには、「残り度数」という重要なルールがあります。
ところが、このルールは連載途中で少し変更されています。
週刊少年ジャンプ掲載時には、最初の入国審査を受けてもテレホンカードの度数は減りませんでした。
しかし単行本では、入国審査を受けると「1度数減る」という設定へ修正されています。
ストーリーを大幅に変える修正ではありません。
それでもゲームの残り回数に関係する部分なので、かなり重要な変更です。
本誌連載を追っていた読者と単行本だけを読んだ読者では、最初に目にしたサイレンゲームのルールが微妙に違っていたことになります。
単行本には本編では見られない日常が収録されている
シリアスな展開の多い『PSYREN』ですが、単行本には「HOLIDAY PSYREN」という番外編も収録されています。
たとえば7巻には「HOLIDAY PSYREN③」と4コマ漫画が収録されていました。
本編では世界の崩壊やW.I.S.Eとの戦いが中心になるため、登場人物の日常生活をゆっくり描く機会は多くありません。
番外編や単行本のおまけでは、普段の雨宮たちの様子やキャラクターのラフなどを見ることができます。
そのため『PSYREN』は、本誌だけを読んでいた場合と単行本まで読んだ場合で、キャラクターから受ける印象が少し変わる作品でもあります。
「単行本のカバー裏に大量の裏設定がある」と紹介されることがありますが、正確にはカバー裏だけではなく、こうした番外編やおまけページを含めて本編外の情報が用意されていると考えた方がよいでしょう。
『PSYREN』は本当に打ち切りだったのか
『PSYREN』について長年語られてきたのが、「本当はもっと続く予定だったのではないか」という打ち切り説です。
集英社や岩代俊明氏が「打ち切りだった」と公式に明かした事実はありませんが、打ち切り説の大きな根拠になっているのが、終盤の掲載順位です。
『PSYREN』は2008年から約3年間、全145話・単行本16巻まで続いた作品です。
短期間で終了した作品ではありませんが、2010年に入ると『週刊少年ジャンプ』の後方に掲載されることが増え、最終回もかなり後ろの位置に掲載されました。
たとえば、2010年35号のラインナップを見てみると・・・
| 掲載順 | 作品名 |
|---|---|
| 1 | ONE PIECE |
| 2 | ナルト -NARUTO- |
| 3 | トリコ |
| 4 | BLEACH |
| 5 | バクマン |
| 6 | 家庭教師ヒットマンREBORN! |
| 7 | ぬらりひょんの孫 |
| 8 | べるぜバブ |
| 9 | SKET DANCE |
| 10 | 銀魂 |
| 11 | こちら葛飾区亀有公園前派出所 |
| 12 | いぬまるだしっ |
| 13 | 保健室の死神 |
| 14 | めだかボックス |
| 15 | 黒子のバスケ |
| 16 | 少年疾駆 |
| 17 | メタリカメタルカ |
| 18 | PSYREN-サイレン- |
| 19 | ピューと吹く!ジャガー |
『PSYREN』にも固定ファンは多くいましたが、この激しい競争の中ではアンケートや単行本売上で上位作品に届かなかったと考えられます。
さらに、終盤になると物語の進行速度が急に上がります。
W.I.S.E.との決着、ミスラの正体、弥勒との共闘、クァト ネヴァスをめぐる真相など、それまでならもっと時間をかけてもおかしくない重要な展開が短期間に集中しています。
このため「編集部から終了時期を伝えられ、岩代氏が残された話数の中で物語を完結させたのではないか」という見方が広まりました。
単行本は連載途中から売上を伸ばしており、約3年間もジャンプで連載されています。
そして何より、連載終了後もアニメ化を望む声が消えませんでした。
AnimeJapanの「アニメ化してほしいマンガランキング」では2018年に6位、2024年にも10位に入り、2025年にも再びノミネートされています。
完結から10年以上が経過しても名前が挙がり続ける作品は、それほど多くありません。
そして2025年、ついにTVアニメ化が発表されました。
つまり『PSYREN』は、「人気がなかったから終了した作品」ではありません。
人気作品が多かった連載当時の週間少年ジャンプでは、掲載順位の上位を維持できなかった可能性が高いのです。
ただ、一方で作品を強く支持する読者はその後も残り続けました。
「週間少年ジャンプのルールでは生き残れなかった。
しかし、読者の記憶からは消えなかった」
この少し特殊な立ち位置こそが、『PSYREN』の打ち切り説が今でも語られ続けている理由なのかもしれません。
漫画『PSYREN』の最後はどうなった?

『PSYREN』の最終話は、第145話「繋がる世界」です。
少年ジャンプ+でも最終話として公式配信されています。
終盤では、弥勒こそが世界崩壊の原因だと思われていました。
しかし本当の黒幕はミスラであり、その背後には地球そのものを取り込もうとするクァト・ネヴァスが存在していました。
アゲハは未来で知った真実を現代の弥勒へ伝えます。
自分がミスラに利用されていたことを知った弥勒はアゲハと共闘し、歴史が大きく変化しました。
その一方で、アゲハたちが旅していた「元のサイレン世界」も消えてしまったわけではありません。
アゲハたちが現代へ戻ったあと、未来に残った弥勒とグラナがクァト・ネヴァスへ立ち向かいます。
二人の行動によって未来世界も救われ、地上には再び光が戻りました。
つまり『PSYREN』は、
「過去を変えたから未来世界はなかったことになった」
という終わり方ではありません。
アゲハたちが新しく作った未来と、アゲハたちが実際に旅したサイレン世界。
分かれてしまった二つの世界が、それぞれ救われる結末になっています。
そして最後の戦いで力を使い果たしたアゲハは、半年間眠り続けます。
目を覚ますきっかけになったのは、別の未来世界から届いた07号たちの声でした。
そこでアゲハは、まだ一つだけやるべきことが残っていると気づきます。
アゲハと雨宮が向かったのは、現代の夢喰島です。
そこには、未来でネメシスQを生み出し、何度もアゲハたちを助けてくれたグリゴリ07号が、まだ施設に閉じ込められていました。
二人は施設へ入り、07号がいる部屋までたどり着きます。
そしてアゲハは、遠い未来からずっと自分たちと繋がっていた07号を、今度は自分たちが助けに来たことを伝えます。
ここで『PSYREN』は完結します。
物語の始まりでは、雨宮が残した「助けて」という言葉を聞いたアゲハがサイレンへ向かいました。
それからアゲハたちは、ネメシスQと07号によって何度も未来へ導かれます。
そして最後は、ずっと自分たちを助けてくれていた07号を、アゲハと雨宮が助ける側になります。
「助けて」から始まった物語が、「助けに来た」で終わるのです。
さらに第1話から重要だった電話も、最後まで「離れた世界を繋ぐもの」として使われています。
だからこそ最終話のタイトルは「繋がる世界」。
現在と未来。
アゲハと雨宮。
07号とアゲハたち。
能力を持つ者と持たない者。
一度は離れてしまった人々が、最後にはもう一度繋がっていきます。
終盤はかなり速い展開でしたが、『PSYREN』という物語の始まりと終わりは、実は非常にきれいにつながっているのです。
漫画で完結し、小説版で「その先」が描かれた
『PSYREN -サイレン-』の物語そのものは、漫画第145話「繋がる世界」でしっかり完結しています。
そのため「漫画が途中で終わり、小説に続いた」というわけではありません。
小説版『another call』は、漫画で描けなかった過去や後日談を補う作品と考えるのが正確です。
フレデリカの過去。
祭と影虎の出会い。
ミスラになる前の少女。
アビスのその後。
戦場カメラマンになったカブト。
そして10年後のアゲハたちとW.I.S.E。
こうした情報を知ることで、漫画では短く描かれた最終盤の世界がさらに広がります。
なかでも象徴的なのは、やはりアゲハと07号の関係でしょう。
未来の07号は、自分が閉じ込められている時代よりずっと昔に生きるアゲハたちへ手を伸ばしました。
その助けを受けたアゲハたちは歴史を変え、最後には現代の07号へ手を伸ばします。
過去を変えるだけでも、未来を救うだけでもありません。
誰かから受け取ったものを、今度は別の誰かへ返していく。
そんな「人と人との繋がり」こそが、『PSYREN -サイレン-』という物語を最初から最後まで貫いていたテーマなのではないでしょうか。





















