1973年に誕生した『キューティーハニー』は、女性ヒーローが変身して悪と戦う作品の先駆けとして知られています。
しかし、ハニーの変身やアンドロイドという設定は、最初から決まっていたものではありません。
実は「毎回いろいろな服に着替えさせたい」というアイデアから逆算して作られた設定でした。
さらに最初の企画はSFでもバトルものでもなく、「少女探偵の七変化」だったのです。
永井豪氏本人が明かした制作秘話や、シリーズによって変化した設定など、『キューティーハニー』の意外な裏側を紹介します。

主人公、如月ハニーは体内に内蔵した「空中元素固定装置」を発動させ、「ハニーフラッシュ!」のかけ声とともに、愛の戦士キューティーハニーに変身。
亡き父の仇である悪の秘密結社「豹の爪」に白銀の剣シルバーフルーレで立ち向かう。
空中元素固定装置は「着替え」のために生まれた

『キューティーハニー』を象徴する設定といえば「空中元素固定装置」です。
空気中の元素を利用してさまざまな物質を作り出せる夢のような発明ですが、最初から壮大なSF設定として考えられたわけではありません。
永井豪氏によると、出発点になったのは「毎回ハニーの着替えを見せたい」というアイデアでした。
しかし毎回、物語の途中で自然に着替える場面を用意するのは大変です。
そこで「一瞬で衣装を変えられる仕組みにすればいい」と考え、空気中の元素を利用して新しい衣装を作り出す空中元素固定装置が誕生しました。
作品を代表する超科学装置が、もともとは「着替えを簡単にする方法」として生まれたというのは意外な制作秘話です。
ハニーがアンドロイドなのも変身から逆算された
初代『キューティーハニー』の如月ハニーは、人間ではなく如月博士が作ったスーパーアンドロイドです。
この重要な設定にも意外な誕生理由があります。
永井豪氏は、一瞬で衣装が消えて別の姿になるという演出に説得力を持たせるため、「主人公を人間ではなくアンドロイドにしよう」と考えたと明かしています。
つまり、最初に「アンドロイド少女の物語」を考えたわけではありません。
先に変身演出があり、その仕組みを説明するために空中元素固定装置が作られ、さらにその装置を体内に持たせるためにハニーがアンドロイドになったのです。
作品の根幹となる設定が、変身シーンから次々と逆算されていました。
「空中元素固定装置」という難しい名前にも理由がある
「空中元素固定装置」は、子ども向け作品に登場するアイテムとしては妙に難しい名前です。
これも偶然ではありません。
永井豪氏は、一瞬で衣装が変わるという現実離れした仕組みに少しでも説得力を持たせるため、あえて漢字を並べた固い名前を付けたと語っています。
魔法のステッキや呪文ではなく、「何だかよく分からないけれど科学的にすごそう」と感じさせる名前にしたわけです。
この設定によって、ハニーの変身は魔法ではなくSFとして説明できるようになりました。
空中元素固定装置は世界の価値観まで壊せる大発明
空中元素固定装置を「ハニーが変身するための装置」と考えるだけでは、その本当の恐ろしさは分かりません。
この装置の本質は、必要な物質を空中の元素から作り出せることにあります。
公式設定でも、宝石や貴金属まで自由に作り出せるため、パンサークローが装置を狙っていると説明されています。
つまり金やダイヤモンドを大量に作ることも可能ということです。
もし現実にそのような装置が存在すれば、金や宝石の希少価値そのものが失われてしまいます。
これまで高価だったものを好きなだけ生み出せるため、お金や資源を中心に動いている社会にも大きな影響を与えるでしょう。
その意味では、空中元素固定装置は単なる便利な発明ではありません。
誰が所有するかによって、世界の経済や力関係そのものを変えてしまう可能性を持つ装置なのです。
パンサークローが何度もハニーを狙う理由も、「変身能力が欲しいから」ではありません。
装置そのものが、世界を支配するほどの価値を持っているからです。
『キューティーハニー』の物語は、見方を変えると「無限に物を作れる技術を誰が手にするのか」というSF作品でもあります。
最初の企画は「少女探偵の七変化」だった

『キューティーハニー』は最初からSFアクションとして考えられたわけではありません。
永井豪氏によれば、最初に提示された企画は「七変化もの」でした。
イメージされていたのは、さまざまな姿に変装して事件を追う少女探偵です。
ところが永井豪氏は「探偵では古くさい」と考え、変装をより大胆な「変身」へ変更しました。
そこへSFやアクションの要素を加えた結果、現在知られている『キューティーハニー』へ発展していったのです。
もしこの変更がなければ、ハニーは戦う変身ヒロインではなく、変装が得意な少女探偵になっていたかもしれません。
七変化の元ネタは『多羅尾伴内』だった
少女探偵という初期構想には、はっきりとした元ネタがありました。
昭和の人気探偵シリーズ『多羅尾伴内』です。
多羅尾伴内は「七つの顔を持つ男」として知られ、さまざまな人物に変装しながら事件を解決します。
永井豪氏も、『キューティーハニー』の初期企画について『多羅尾伴内』の少女版だったと説明しています。
「ある時は○○、またある時は○○、しかしてその実体は……」という形式にも、その影響を見ることができます。
ハニーの七変化は、魔法少女作品から生まれたのではなく、昭和の変装探偵から発展したものだったのです。
漫画が人気になってアニメ化された作品ではない

『キューティーハニー』は、永井豪氏の漫画が人気になり、それを東映がアニメ化したと思われがちです。
しかし、実際の誕生過程は少し違います。
永井豪氏自身が、『キューティーハニー』の始まりはテレビアニメ企画だったと明かしています。
東映動画から新しい作品の依頼があり、その企画をもとに永井豪氏がキャラクターや設定を作っていきました。
その後、漫画とテレビアニメがほぼ同時に展開されています。
さらに永井豪氏の漫画だけでなく、石川賢氏など別の漫画家による『キューティーハニー』も複数の雑誌に掲載されました。
現在でいうメディアミックスを、1970年代の時点ですでに大規模に行っていた作品だったのです。
少年漫画で女性が戦う主人公になること自体が挑戦だった
現在では、女性が主人公の少年漫画も珍しくありません。
しかし『キューティーハニー』が登場した1970年代前半には、女性が単独で物語の中心になり、自ら敵と戦う少年漫画はまだ珍しい存在でした。
永井豪氏は後年、少年漫画で女性を主人公にする道について、自分がその道を切り拓いたと思っていると語っています。
もちろん、『キューティーハニー』以前にも女性主人公の作品は存在します。
それでも、女性自身が変身し、敵と正面から戦い、さらにファッションまで作品の大きな魅力にしたハニーは当時としては異色でした。
後に増えていく「戦う変身ヒロイン」の流れを考えるうえでも重要な作品です。
ハニー誕生の原点には「着せ替え人形」もあった

ハニーが次々と衣装を変える発想には、永井豪氏の子ども時代の経験も関係しています。
永井氏は、女の子たちが着せ替え人形で遊んでいる姿を見て、楽しそうだと感じていたそうです。
そこから「男の子でも着せ替え人形の楽しさを味わえないだろうか」と考えたことが、ハニー誕生につながったと語っています。
ハリケーンハニーやフラッシュハニーなど、ハニーがさまざまな職業や衣装へ姿を変える仕組みは、いわば動く着せ替え人形でもありました。
戦闘とファッションをひとつの作品に組み込むという独特のスタイルには、そんな意外な原点があります。
ハニーの正体はシリーズによって違う
「如月ハニーは何者なのか」という設定は、すべての作品で同じではありません。
1973年のテレビアニメでは、如月博士が作った「スーパーアンドロイド」とされています。
ところが1997年の『キューティーハニーF』では設定が変化しました。
物語の後半で、ハニーは空中元素固定装置によって生み出された「新生命体」であり、人間ではないことが明らかになります。
さらに同作では、聖羅も別の空中元素固定装置によって作られた存在として描かれました。
初代では物質を作るための装置だった空中元素固定装置が、後のシリーズでは「生命まで生み出せる技術」へと発展したわけです。
同じ如月ハニーでも、
「精巧なアンドロイド」
から、
「空中元素固定装置によって生まれた生命」
へと解釈が変わっています。
長いシリーズだからこそ見られる、大きな設定の変化です。
パンサーゾラの正体も作品によって変化している

パンサークローを支配するパンサーゾラも、作品によって正体が大きく変わる存在です。
初代テレビアニメでは「魔女」とされています。
ところが『キューティーハニーF』では、さらに抽象的な存在になりました。
物語の終盤では、パンサーゾラは「人の欲望から生まれた存在」であることが明らかになります。
シスタージルやプリンスゼラなども、ゾラから生まれた分身として扱われています。
そのためパンサーゾラは、単なる悪の組織のボスではありません。
人間から欲望がなくならない限り、完全には消えない存在という意味も持つようになりました。
初代の「魔女」から、人間の欲望そのものを象徴する存在へと解釈が広がっていったのです。
全25話なのは「人気がなかったから」ではない
初代テレビアニメ『キューティーハニー』は全25話です。
現在の長期アニメと比べると短いため、「人気が出なかったので早く終了したのではないか」と言われることがあります。
しかし、東映側が公開した資料では別の事情が説明されています。
当時の放送時間は土曜日の20時30分でした。
一般的な子ども向けアニメより少し上の年齢層を意識した内容で、作品自体は人気を得ていたものの、子どもには刺激が強すぎたこともあり、2クール25話で終了したとされています。
そのため「人気がなくて打ち切られた」と単純に考えるのは正確ではありません。
むしろ当時としては、それだけ強い印象を与える作品だったともいえます。
『キューティーハニーF』ではセーラームーンとの関係が逆転した
『キューティーハニー』は、後の変身ヒロイン作品の先駆けとして語られることがあります。
そのため「『美少女戦士セーラームーン』もハニーから生まれた」という説を見かけますが、直接的な関係まで断定する場合には注意が必要です。
一方、その後に作られた『キューティーハニーF』については、東映アニメーション自身が『美少女戦士セーラームーン』の系譜を継ぐ変身ヒロイン作品と説明しています。
つまり初代『キューティーハニー』が先に登場し、その後さまざまな変身ヒロイン作品が発展しました。
そして1997年には、その新しい変身ヒロインのスタイルを取り入れて『キューティーハニーF』が作られたのです。
先駆者だった作品が、約24年後には自分より後に登場した作品の流れを取り入れるという興味深い関係になっています。
キューティーハニーの裏設定まとめ
『キューティーハニー』の裏設定を調べていくと、現在では当たり前になった「女性が変身して戦う」というスタイルが、さまざまな試行錯誤から生まれたことが分かります。
特に面白いのは、ハニーのアンドロイド設定や空中元素固定装置まで、「毎回違う衣装に着替えさせたい」という発想から逆算して作られたことです。
さらに空中元素固定装置は単なる変身用の仕組みではなく、宝石などの物質を自由に作り出し、後の作品では生命まで生み出すほどの技術へ発展しました。
少女探偵の七変化という企画が、SFやアクションを取り込むことで、まったく新しいヒロイン像へ変わっていったのです。
シリーズが続く中でハニーやパンサーゾラの正体まで再解釈されている点も、『キューティーハニー』ならではの面白さでしょう。

主人公、如月ハニーは体内に内蔵した「空中元素固定装置」を発動させ、「ハニーフラッシュ!」のかけ声とともに、愛の戦士キューティーハニーに変身。
亡き父の仇である悪の秘密結社「豹の爪」に白銀の剣シルバーフルーレで立ち向かう。





















