『ハイキュー!!』は、高校バレーボールを題材にした古舘春一氏の人気漫画です。
試合の熱さや魅力的なキャラクターが注目される作品ですが、連載が始まるまでには何度もの作り直しがありました。
実は日向翔陽ではなく影山飛雄が主人公になる予定だったなど、現在の作品からは想像しにくい初期構想も存在します。
さらに、日向だけが西谷を「ノヤさん」と呼ぶ理由や、木兎光太郎には意図的に心の声が描かれていないなど、知ってから読み返したくなる仕掛けも少なくありません。
今回は、古舘氏や関係者が明かした制作秘話を中心に、ファンの間で広まった考察や都市伝説も含めて紹介します。
最初の主人公は日向ではなく影山だった

『ハイキュー!!』といえば、日向翔陽が主人公というイメージが強い作品です。
しかし、古舘氏が最初に考えていた主人公は影山飛雄でした。
作品の初期構想は「ものすごいセッターが、スパイカーに完璧なトスを合わせる」というところから始まったと明かされています。
つまり、現在とは反対に「天才セッター側から物語を見る漫画」になる可能性があったわけです。
構想を練る中で日向という人物が作られ、最終的には日向を主人公、影山を相棒兼ライバルにする形へ変化しました。
読み切り版の影山も連載版とは少し雰囲気が違うため、現在の「コート上の王様」という設定が完成するまでには何度も調整が行われたことが分かります。
連載前の約1年間は準備期間ではなかった
『ハイキュー!!』は、連載開始まで約1年間構想を練った作品として紹介されることがあります。
ところが古舘氏によると、最初から1年間かけて準備する予定だったわけではありません。
連載会議になかなか通らず、修正してもう一度提出することを繰り返していた結果、約1年が経過したそうです。
古舘氏は、最初の状態で連載が始まっていたら短期間で終わっていた可能性もあったという趣旨の話をしています。
現在の完成度の高い作品は、何度も作り直された結果だったのです。
日向は「ツッコミ型主人公」として作られた

日向は明るく勢いのある人物なので、典型的な少年漫画主人公に見えるかもしれません。
しかし古舘氏は、日向をあえて「ツッコミ型の主人公」として考えていました。
少年漫画には、周囲を振り回すボケ役のような主人公が多いと感じていたため、逆の人物にしたかったそうです。
そのため日向は、影山や田中たちの変わった言動に驚いたり、頭の中で冷静に反応したりする場面が多くなっています。
怖いものは怖いと感じ、緊張すれば弱気にもなるところも日向らしさの一つです。
『ハイキュー!!』の原点は「天才セッター」だった
作品の中心には小柄な日向がいるため、「身長が低い選手の挑戦」が最初のテーマだったように思えます。
しかし、作品の原点はセッターでした。
古舘氏が考えていたのは、どんなスパイカーにも正確なトスを合わせられる、すごいセッターの物語だったのです。
そこから「そのトスを打つスパイカーはどんな人物なのか」と考え、日向につながっていきました。
影山のトスによって日向の能力が引き出される「変人速攻」が物語の中心になったのも、初期構想を考えると納得できます。
古舘氏自身のバレーへの未練から生まれた
古舘氏は中学、高校でバレーボール部に所属していました。
ポジションはミドルブロッカーです。
ただし、選手として大きな結果を残したわけではなく、学生時代のバレーに対して心残りのような気持ちがあったと語っています。
そこで「漫画でもう一度バレーをやりたい」という思いが、『ハイキュー!!』につながりました。
日向がミドルブロッカーなのも、古舘氏自身の経験と無関係ではありません。
クイックがきれいに決まったときの感覚など、実際に経験した人だからこそ描ける部分が作品へ生かされています。
舞台は宮城なのに烏野周辺は岩手がモデル
烏野高校があるのは宮城県という設定です。
古舘氏は高校卒業後、宮城県で長く生活していたため、土地勘のある宮城を物語の舞台に選びました。
ところが、烏野高校周辺の景色を描く際に思い浮かべていたのは、出身地である岩手県の風景だったそうです。
つまり、物語上の場所は宮城でも、どこか岩手らしい景色が混ざっています。
地方の高校生が東京の全国大会を目指すことで、「遠くまで勝ち進んできた」という特別感を出せることも、地方を舞台にした理由の一つでした。
日向だけ「ノヤさん」と呼ぶ理由がある
西谷夕は、田中たちから「ノヤッさん」と呼ばれています。
ところが日向は「ノヤさん」と呼んでおり、小さい「ッ」がありません。
単なる表記の違いに見えますが、古舘氏は理由を考えていました。
日向は先輩たちが「ノヤッさん」と呼んでいる姿を格好いいと感じ、自分も同じように呼ぼうとしています。
しかし、まだ呼び慣れていないため「ノヤさん」になってしまうという設定です。
セリフのわずかな違いにまで人物関係が作り込まれていることが分かります。
山口忠の「忠」には意味があった
山口忠は、物語の初期では月島蛍といつも一緒に行動しています。
古舘氏は当初、山口を現在ほど活躍させる予定ではなかったとされています。
月島の後ろについていくような人物として考えられており、「忠」という名前にも忠犬のようなイメージが含まれていました。
ところが物語が進むにつれ、山口はジャンプフローターサーブを身につけ、自分から月島を動かすほど成長します。
初期の名前に込められた関係性が、途中から逆転していくところも面白い点です。
木兎には意図的に「心の声」が描かれない
古舘氏はキャラクターを作る際、性格だけではなく「心の声を描く人物かどうか」まで考えていました。
その代表例が木兎光太郎です。
木兎には基本的にモノローグがありません。
気分が良ければ喜び、調子を崩せば落ち込み、言いたいことはほとんど口や態度に出します。
読者だけに本心を見せる必要がない人物として作られているわけです。
木兎の裏表のない性格が、漫画の表現方法にも反映されています。
天童覚は描きながら完成したキャラクター
白鳥沢の天童覚は、登場した瞬間から強烈な個性を持っています。
しかし、最初から細かい性格まで完成していたわけではありません。
古舘氏は、天童についてセリフや周囲への反応を考えながらキャラクターが固まっていったと明かしています。
最初にすべての設定を決める人物もいれば、漫画を描いている途中で本人の性格が見えてくる人物もいるそうです。
自由な行動が多い天童らしい誕生の仕方ともいえます。
分かりやすい悪役がいないのは意図的だった
『ハイキュー!!』では、対戦相手にも魅力的な人物が多く登場します。
相手校だからという理由だけで、嫌な人物として描かれることはほとんどありません。
これにも古舘氏なりの考えがありました。
分かりやすい悪役を出すと、その人物を倒したり、考え方を変えたりするための話が必要になります。
するとバレーボールそのものから物語が離れてしまいます。
そこで、試合を面白く描くことを優先し、敵だから悪い人物という構図を作らなかったそうです。
試合が終われば相手も同じバレーボール選手という作品の雰囲気は、意識的に作られていました。
強豪校のセッターに強いサーバーが多い理由
影山や及川徹など、『ハイキュー!!』にはサーブが強いセッターが目立ちます。
古舘氏自身も、この傾向について後から気づいたと語っています。
背景の一つとして考えられているのが、連載前に取材した東亜学園高校です。
そこで見たセッターが優れたサーバーでもあり、その印象が強く残っていた可能性があると古舘氏は振り返っています。
また、セッターがサーブで相手を崩せば、そのまま試合の流れを大きく変えられます。
漫画としてピンチや逆転を作りやすかったことも影響しているようです。
青葉城西の「月曜日休み」は実在する強豪校が元
強豪校と聞くと、毎日休まず練習しているイメージがあるかもしれません。
しかし青葉城西高校では、月曜日を休養日にしています。
これは実際の強豪校への取材から生まれた設定です。
古舘氏が東亜学園高校を取材した際、全国レベルのチームでもきちんと休養日を設けていることを知りました。
そこで聞いた「休むこととサボることは違う」という考え方が、青葉城西や及川の姿勢へ反映されています。
根性だけではなく、体調管理まで含めて強くなるという考え方です。
猫又監督の指導方法にも実在モデルがある
音駒高校の猫又監督は、子どもたちにバレーボールを教える際、ネットを低くする場面があります。
これも取材で知った実際の指導方法が元になっています。
小さな子どもに通常の高さのネットを使わせても、簡単にはスパイクを決められません。
そこで最初はネットを低くして、ボールを打つ楽しさを知ってもらいます。
猫又監督の「まずバレーを好きになってもらう」という考え方は、現実の指導現場から取り入れられたものでした。
16巻と19巻の表紙を並べると一枚になる
コミックス16巻の表紙には山口忠、19巻には月島蛍が描かれています。
一見すると別々の表紙ですが、並べることで一つの構図になるよう作られています。
山口は長い槍のような武器を持ち、月島は大きな盾を構えています。
山口の武器はサーブ、月島の盾はブロックを思わせるデザインです。
ファンからは「矛と盾のコンビ」として語られることもあります。
19巻発売時にも、公式側から16巻と並べて見ることを勧める案内が行われており、意図的な仕掛けでした。
古舘氏の前作キャラクターが登場している
古舘氏は『ハイキュー!!』以前に、『詭弁学派、四ッ谷先輩の怪談。』を連載していました。
この作品には中島真という人物が登場します。
そして『ハイキュー!!』の和久谷南高校には、中島猛という選手が登場しました。
中島家の描写には前作を思わせる人物が登場しており、古舘氏の作品を以前から読んでいたファンには有名な小ネタとなっています。
このため「二つの漫画は同じ世界なのではないか」という考察も生まれました。
完全に同一の世界だと公式に説明されたわけではありませんが、前作を知っている読者へのサービスとして楽しめる仕掛けです。
「大地さんが退場する」という噂が世界的なミームになった

ファンの間で有名になった変わった噂が、澤村大地に関するものです。
和久谷南戦で澤村と田中が激しくぶつかり、澤村が試合から離れる場面があります。
描写がかなり深刻だったことから、ネット上では「大地さんがこのまま戻ってこない」という大げさな冗談が広まりました。
冗談を知らない初見の読者や海外ファンまで本気で信じてしまい、「本当に退場するのか」と検索する人が増えたことで、長年続くミームになっています。
もちろん実際の物語とは異なります。
大人になった澤村もしっかり登場するため、ファンの悪ノリから生まれた都市伝説です。
日向たちには実在選手のモデルがいるという説
日向翔陽や影山飛雄について、「この実在選手がモデルなのではないか」という考察は数多く存在します。
小柄で高く跳ぶ選手を見ると日向、優秀なセッターを見ると影山や及川に結びつけるファンも少なくありません。
しかし古舘氏は、キャラクターそのものを作る際には、現実の特定人物をそのまま参考にする方法は基本的に取っていないという趣旨の説明をしています。
一方で、プレーや戦術には実在選手や実際の高校への取材が大量に使われています。
そのため「プレーの参考元」と「人物のモデル」が混同され、実在モデル説が広まった可能性があります。
特定選手が日向や影山の公式モデルだと断定する情報には注意が必要です。
烏野の太鼓は取材中の偶然から生まれた
烏野の試合といえば、応援席から響く力強い太鼓も印象に残ります。
しかし、この応援方法も最初から考えていたものではありません。
古舘氏が春高を取材していた際、偶然見かけた高校の太鼓を使った応援が強く印象に残りました。
その体験が、烏野の応援へ取り入れられています。
試合だけではなく、観客席の雰囲気まで現実の高校バレーから拾い上げていたことが分かるエピソードです。
連載終了後にも新しい公式設定が増えている
『ハイキュー!!』は2020年に原作の連載を終えています。
しかし、作品の設定まで完全に止まったわけではありません。
アニメ10周年企画では、原作で横断幕が描かれていなかった学校について、古舘氏が新たなデザインや言葉を考案しました。
つまり、『ハイキュー!!』には連載終了後に追加された公式設定も存在します。
今後も記念企画や新しい公式資料によって、これまで分からなかった学校やキャラクターの情報が明かされる可能性があります。
ハイキュー!!の裏設定まとめ
『ハイキュー!!』は、最初から現在の形が完成していた作品ではありません。
影山が主人公だった初期構想から、何度も連載会議へ挑戦し、日向と影山を中心とした現在の物語へ作り直されていきました。
キャラクターについても、山口のように当初の予定以上に成長した人物がいる一方、木兎のように「心の声を描かない」という細かなルールまで決められています。
また、青葉城西の休養日や猫又監督の指導法、烏野の応援など、何気ない場面にも現実のバレーボール取材が生かされています。
ファンの間では実在選手モデル説や大地さんの退場説なども広まりましたが、公式情報とファンの考察を分けて見ることも大切です。
こうした制作の裏側を知ってから読み返すと、セリフや人物関係、試合中の小さな描写まで違って見えるかもしれません。





















