『BLACK LAGOON(ブラック・ラグーン)』は、タイの架空都市ロアナプラを舞台に、ラグーン商会や各国の裏社会の人々を描いた作品です。
派手な銃撃戦や個性的な登場人物が目立ちますが、実は作品の外で明かされた設定や制作秘話もかなり多く残されています。
中には「最初から決まっていた設定」に見えて、実際には連載開始後に生まれたものもあります。
ここでは、広江礼威氏の発言やアニメ版の片渕須直監督の証言を中心に、物語を知っている人ほど面白い裏設定を紹介します。
なお、ファンの間で広まっている説については、公式に確認できる内容と分けて紹介します。

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ロックは最初の構想には存在していなかった

今では物語の中心人物であるロック(岡島緑郎)ですが、実は『BLACK LAGOON』の初期構想には存在していませんでした。
広江礼威氏によると、作品のアイデアを考え始めたのは1995年ごろです。
当時ニュースで報じられていたアジア近海の現代海賊に興味を持ち、海を舞台にした作品を考え始めたとのことです。
この段階ですでにレヴィ、ダッチ、ベニー、バラライカ、バオといった人物は生まれていました。
ところが読み切り作品として企画を出した際、編集部から「読者に近い目線の人物が必要」と言われます。
そこで急きょ作られたのが岡島緑郎、つまりロックでした。
広江氏自身も、後にロックが現在のような人物になるとは想像していなかったと語っています。
つまりロックは、世界観の中心として最初から作られた主人公ではなく、読者をロアナプラへ連れていくために後から加えられた人物だったのです。
ロアナプラは「打ち切られても困らない街」として作られた
ロアナプラは、細かな歴史まで最初から完成していた巨大な世界設定だと思われがちです。
しかし、誕生した理由はかなり現実的でした。
広江氏は当時、連載がいつ終わってもおかしくないと考えていたそうです。
そこで「何が起きても不自然ではなく、どんな強烈な人物を出しても成立する街」としてロアナプラを作りました。
つまり、長期連載を前提に世界を広げたのではなく、どんな話でも入れられる舞台を先に用意したわけです。
この作り方のおかげで、ロシア系組織、香港系組織、南米の武装勢力、情報機関など、まったく違う背景を持つ人物を同じ街に集めることが可能になりました。
結果として「打ち切り対策」のような発想から生まれた街が、作品最大の魅力のひとつになったのです。
「ロアナプラのモデルはパタヤ」という説は公式確定ではない
ファンの間では、ロアナプラのモデルはタイのパタヤではないかという説が長く語られています。
海沿いの街であることや歓楽街のイメージなどから、似ていると考える人が多いようです。
ただし、広江氏が「ロアナプラはパタヤをそのままモデルにした」と公式に説明した資料は確認できません。
むしろ広江氏は、タイの人から「こんな街はタイにない」と言われても当然だろう、という趣旨の発言をしています。
さらにアニメ版では、片渕須直監督がロアナプラの景観を作る際、香港やベトナムなどを参考にしながら架空の街として組み立てたと説明しています。
そのため、ロアナプラは「パタヤそのもの」というより、東南アジアの複数の都市や港町の印象を混ぜた架空都市と考えるほうが公式情報には近そうです。
パタヤ説は面白い考察ですが、現時点ではファン説として扱うのが安全でしょう。
物語の開始年代は1995年だった
アニメだけを見ていると、作品の年代はあまり強く意識されません。
しかし『BLACK LAGOON』は、基本的に1990年代半ばを舞台にした物語として作られています。
片渕須直監督はアニメ化の打ち合わせで広江氏と会った際、原作を読んだだけで「これは1995年の話ですよね」と指摘したそうです。
広江氏はその指摘に驚き、正しいと認めました。
片渕監督が気づいた手がかりは、Uボート編に出てくる過去の年代と「何年前」という記述だったと語っています。
この年代を知ると、ソ連崩壊後のロシア系組織、ベトナム戦争を経験した人物、冷戦後の混乱などが物語の背景として置かれている理由も見えやすくなります。
スマートフォンが登場せず、連絡手段や情報の集め方が現在とは違うことにも意味があるのです。
レヴィが中国系アメリカ人なのには明確な理由がある
レヴィの出自は、単に国際色を出すために決められたわけではありません。
広江氏は、レヴィをアメリカ社会の中で少数派に属する人物にしたかったと説明しています。
見た目は東アジア系でありながら、考え方や育った文化はアメリカというずれを持たせることで、人物像に複雑さを加えようとしたそうです。
また、どこにも完全には属していないような「根無し草」の感覚も意識されていました。
さらにレヴィの肩から腕に入っている大きなタトゥーにも元ネタがあります。
広江氏によれば、映画『フロム・ダスク・ティル・ドーン』でジョージ・クルーニーが演じた人物のタトゥーが直接の参考になったとのことです。
レヴィは外見も性格も完全な思いつきではなく、映画文化と社会的な背景を組み合わせながら作られた人物なのです。
張維新には明確な映画モデルがいる
『BLACK LAGOON』の登場人物は、特定の実在人物をそのまま写したものではないと広江氏は説明しています。
ただし、例外に近い人物が張維新です。
広江氏は張について、香港俳優チョウ・ユンファを意識していると明言しています。
さらに別のインタビューでは、ジョン・ウー監督の映画『男たちの挽歌』を元にした人物だと説明しました。
二丁拳銃、スーツ姿、落ち着いた態度といった張の印象が、1980年代から1990年代の香港ノワール作品を思わせるのは偶然ではありません。
作品全体が香港映画やハリウッド映画から強い影響を受けていますが、張はその影響が特にわかりやすく形になった人物といえます。
ロベルタは「面白い人物を出し惜しみしない」という反省から生まれた

ロベルタには重い過去や細かな経歴が設定されています。
そのため、最初から綿密に作られた人物のように見えます。
ところが出発点はかなり単純で、広江氏は「武装したメイドが大暴れしたら面白い」と考えたことが始まりだったと明かしています。
背景には、以前の作品で面白そうな人物を温存していたところ、その人物を出す前に作品が終了してしまった経験がありました。
そこで『BLACK LAGOON』では、面白いと思った人物は早めに登場させる方針に変えたそうです。
ロベルタの過去や所属は、その後で現実の歴史や社会背景を重ねながら作り込まれていきました。
また、ロベルタが異常な勢いで走る演出も偶然ではありません。
広江氏は最初から「ターミネーターのような走り方」をやりたかったと語っており、アニメ版ではそれをさらに印象的に表現してくれたと評価しています。
双子編にはまったく違うクライマックス案があった
ヘンゼルとグレーテルのエピソードは、シリーズの中でも特に重い話として知られています。
しかし当初は、現在とは違う終盤が考えられていました。
広江氏によれば、最初の案ではバラライカ率いる部隊と双子による大規模な銃撃戦をクライマックスにする予定だったそうです。
ところがページ数の都合でその案を断念し、現在の形へ変更されました。
さらにこの話自体には、当時の「かわいそうな小さな女の子を優しく救う」タイプの作品への反発も込められていたと広江氏は説明しています。
簡単に救いを与える物語にはしない、という考えが最初からあったわけです。
グレーテルがラグーン号で歌う「MIDNIGHT, THE STARS AND YOU」も偶然選ばれた曲ではありません。
映画『シャイニング』で使われた曲であり、双子という共通点からスティーヴン・キング作品へのオマージュとして使われました。
単に刺激の強い話なのではなく、作品に対する広江氏自身の考えや映画への引用が重なったエピソードだったのです。
ロックとレヴィは公式には「恋人」ではない
ロックとレヴィの関係については、ファンの間で恋愛感情があるのではないかという考察が長く続いています。
特に二人で煙草に火をつけ合う場面は、強い親密さを感じさせる場面として有名です。
しかし広江氏は、この二人について「相棒ではあるが、彼氏と彼女の関係ではない」という趣旨の説明をしています。
二人の間には薄い膜のようなものがあり、近くにいながらも完全には同じ世界に立っていない関係を描きたかったそうです。
もちろん、これだけで将来的な感情の変化まで否定されたわけではありません。
ただし少なくとも、あの有名な煙草の場面を「二人が恋人になった証拠」と断定するのは、作者の説明とは少し違います。
むしろ、近いのに決定的な部分では交わらないという距離感こそ、ロックとレヴィの関係の重要な部分なのでしょう。
アニメ版は原作者が細部まで指示した作品ではなかった
アニメ版は原作の空気を非常に強く残しているため、広江氏が細部まで制作を管理していたと思われることがあります。
実際には、広江氏自身は「観察者・監修者に近い立場」で、片渕須直監督の演出にはできるだけ口を出さなかったと話しています。
片渕監督も、原作をそのまま映像へ写すのではなく、もともと作品が持っていたハリウッド映画的な雰囲気を、アニメではさらに映画らしく再構成する考えだったと説明しています。
広江氏は完成したアニメについて、漫画では描く機会がなかった部分まで片渕監督が表現してくれたと高く評価しています。
つまりアニメ版は「原作をそのまま動かした作品」ではなく、片渕監督が原作の意図を読み取り、別の映像作品として組み直したものなのです。
BLACK LAGOONの裏設定まとめ

『BLACK LAGOON』には、物語だけを見ていると気づきにくい制作上の仕掛けが数多くあります。
ロックが後から作られた人物だったことや、ロアナプラが連載を自由に動かすための舞台だったことを知ると、作品の見え方もかなり変わります。
また、レヴィや張、ロベルタのような強烈な人物も、単純な思いつきだけで作られたわけではありません。
映画、現実の歴史、社会背景、作者自身の過去の経験などを組み合わせながら、現在の形へ育っていきました。
一方で「ロアナプラ=パタヤ説」や「ロックとレヴィはすでに恋人」という見方のように、ファンの間で有名でも公式には確定していないものもあります。
公式情報と考察を分けて見ることで、『BLACK LAGOON』の世界をより深く楽しめるのではないでしょうか。

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