1997年から長く放送されたアニメ『ポケットモンスター』には、テレビ本編だけを見ていても分からない裏設定が数多く存在します。
初期シリーズ構成を担当した首藤剛志氏が考えていた最終回、小説版だけで明かされたサトシの家庭環境、途中で消えてしまったGSボールなど、現在ではほとんど語られない設定もあります。
また、「サトシはなぜずっと10歳なのか」「ゲンガーはピクシーの影なのか」など、有名な都市伝説も生まれました。
今回は、公式に語られた制作秘話から小説版の設定、ファンの間で広まった都市伝説まで、『ポケットモンスター』の知られざる裏側を紹介します。

仲間たちと暮らしていた頑固者ポケモンのザルードは、 ある日、川辺で人間の赤ん坊を見つける。
「ニンゲン、これが……」 見捨てられないザルードは、 森の掟に反して、赤ん坊をココと名付け、 群れを離れてふたりで暮らすことを決意する。
ポケモン映画中、もっとも高い評価を獲得している作品のひとつです。
首藤剛志氏はまったく違う最終回を考えていた

アニメ初期のシリーズ構成を担当した首藤剛志氏は、自身のコラムなどで『ポケットモンスター』の最終回について、いくつかの構想を明かしています。
中でも有名なのが、大人になったサトシが少年時代を思い出すという案です。
サトシにとってポケモンとの冒険は、子どもの頃にしか見ることのできなかった世界として描かれる予定でした。
現在まで続いている明るいポケモンの世界とは、かなり違う雰囲気です。
さらに首藤氏は、ポケモンたちが人間との関係に疑問を持ち、ピカチュウを中心として人間に反発する展開も考えていました。
その中では、サトシとピカチュウがそれぞれ違う立場に立つことになります。
ただし、これは正式に決定していた最終回ではありません。
あくまで首藤氏が物語の終わり方として考えていた構想です。
サトシの父親と祖父もポケモントレーナーだった
アニメ本編では、サトシの父親についてほとんど語られていません。
しかし、首藤剛志氏による小説版『ポケットモンスター The Animation』では、父親だけでなく祖父についても触れられています。
サトシの祖父はポケモントレーナーを目指して旅立ち、その後、父親も同じように旅へ出ました。
ところが、どちらも大きな成功を収めたトレーナーとして名前を残してはいません。
そのため小説版では、ハナコがほぼ一人でサトシを育ててきた家庭として描かれています。
アニメ制作スタッフからも、サトシの父親はトレーナーとして旅を続けているという趣旨の話が出ています。
長年ファンの間では「サカキが父親なのではないか」「オーキド博士が父親なのではないか」といった説も出ましたが、公式に認められた設定ではありません。
小説版では10歳になると大人として扱われる
なぜサトシは10歳で一人旅を始められたのでしょうか。
首藤剛志氏の小説版では、その理由につながる独特の社会制度が描かれています。
この世界では10歳になると大人として扱われ、自分の進路を決められるという設定になっています。
そのため、ポケモントレーナーとして町を離れることも特別なことではありません。
現在のアニメだけを見ると「10歳の少年が一人で旅をする」という少し不思議な設定ですが、初期の世界観では社会の仕組みそのものが現実とは違っていたのです。
ただし、この「10歳で大人になる」という設定は主に小説版で描かれたものです。
現在のアニメ世界にも同じ制度が残っているとは限りません。
マサラタウンは昔「マッシロタウン」だった
サトシの故郷として有名なマサラタウンにも、小説版だけの意外な歴史があります。
もともとの町名は「マッシロタウン」でした。
その後、オーキド博士の先祖であるオーキド・マサラがポケモントレーナーとして大きな功績を残します。
その功績をたたえて、町の名前が「マサラタウン」に変えられたという設定です。
つまり、マサラという名前は町の雰囲気から付けられたのではなく、人名が由来だったことになります。
さらにオーキド家は町でも大きな力を持つ名家として描かれていました。
シゲルが豪華な車や多くの取り巻きとともに旅立てた背景にも、オーキド家の豊かさがあったと考えられます。
タケシは小説版では21人兄弟だった
アニメのタケシは、たくさんの弟や妹を養うしっかり者として登場します。
しかし、小説版では家庭環境がさらに複雑です。
父親のムノーはポケモントレーナーを目指して家を出ており、母親も家を離れています。
さらに母親が何度も家庭を持ったことから、戸籍上ではタケシを含めて21人もの兄弟がいるという設定になっています。
アニメでは兄弟の人数が整理されているため、小説版と本編ではかなり違います。
また、小説版のニビジムは決して裕福ではありません。
ジムの維持費や挑戦者への対応などで家計は厳しく、タケシは若いうちから弟や妹たちの生活まで背負っていました。
アニメで見せる大人びた性格にも、こうした初期設定を見ると違った印象を受けます。
カスミは姉たちへの強いコンプレックスを抱えていた
ハナダジムのカスミにも、小説版ではより細かな心情が設定されています。
カスミにはサクラ、アヤメ、ボタンという3人の姉がいます。
姉たちは美人で華やかだったため、末っ子のカスミは自分と比べてしまい、強い劣等感を抱いていました。
自分の力を証明し、一流のみずポケモントレーナーになることが旅の大きな目的でもあります。
アニメでも姉たちとの関係は描かれていますが、小説版では「姉たちとは違う自分になりたい」という気持ちがより強く表現されています。
サトシと旅を続けるカスミの負けず嫌いな性格にも、こうした背景がつながっています。
GSボールにはセレビィが関係する予定だった
初期アニメ最大の未回収の謎とも言われるのが「GSボール」です。
オレンジ諸島からジョウト地方へと運ばれ、ガンテツに調べてもらうことになりました。
ところが、その後はほとんど触れられません。
制作に関わった日高政光氏によると、GSボールにはもともとセレビィが関係する予定だったそうです。
サトシたちとセレビィを中心とする大きな物語が作られる構想がありました。
しかし、セレビィが劇場版『セレビィ 時を超えた遭遇』の中心ポケモンとして使われることになります。
テレビアニメで同じポケモンを大きく扱う計画はなくなり、GSボールの物語もそのまま終わってしまいました。
長年謎だったGSボールが忘れられたわけではなく、制作途中で役割を失ったということになります。
ピカチュウは人間の言葉を話す予定だった
現在のピカチュウは「ピカ」「ピカチュウ」といった鳴き声だけで感情を表現します。
しかし、アニメ制作初期には、人間の言葉を話せるようになる案もあったそうです。
ところが、声を担当する大谷育江さんの演技によって状況が変わりました。
同じ「ピカ」という言葉でも、喜び、怒り、悲しみ、困惑などを細かく表現できたためです。
その結果、人間の言葉を話させなくても十分に気持ちが伝わると判断されました。
海外版でもピカチュウの声は基本的に大谷さんの声が使用されています。
言葉を翻訳しなくても感情が伝わることが、世界中で同じ声を使える大きな理由になりました。
ピカチュウが相棒になったのは御三家を公平にするため
ゲーム『ポケットモンスター 赤・緑』では、最初のポケモンとしてフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメから1匹を選びます。
それなのに、アニメのサトシの相棒はピカチュウでした。
これにも制作上の理由があります。
もしサトシがヒトカゲを選べば、フシギダネやゼニガメを選んだ子どもは「自分の選んだポケモンが主人公ではない」と感じる可能性があります。
そこで、ゲーム開始時には選ばない別のポケモンを主人公の相棒にすることになりました。
当時すでに人気が高かったピカチュウが選ばれ、現在の「サトシとピカチュウ」という組み合わせが誕生したのです。
タケシが一度仲間から外れたのは海外展開への心配から
カントー地方を一緒に旅したタケシは、オレンジ諸島編で突然サトシたちと別れます。
その代わりに仲間になったのがケンジでした。
日高政光氏によると、この変更には海外展開が関係していました。
制作側では、タケシの目のデザインが海外で人種的な表現として問題視される可能性を心配していたそうです。
そのため、一度タケシを外し、新キャラクターのケンジを登場させました。
しかし、実際には海外の視聴者からタケシに対する大きな反発は起こらず、むしろ人気キャラクターとして受け入れられました。
その後タケシは再びサトシの仲間に戻っています。
ムサシの母親はロケット団のエリートだった
ムサシの家族については、テレビアニメ本編だけではほとんど語られません。
しかし、関連ラジオドラマでは母親の「ミヤモト」が登場します。
ミヤモトはロケット団に所属する優秀な団員で、幻のポケモン・ミュウを探す任務を与えられていました。
調査のため南米の山岳地帯へ向かい、その後行方が分からなくなります。
幼いムサシは母親と離れ、非常に貧しい生活を送ることになりました。
アニメでは、子どもの頃に雪を寿司のように握り、食事の代わりにしていた思い出も語られています。
いつも強気で明るいムサシですが、幼少期にはかなり厳しい生活を経験していたのです。
コジロウは大富豪の生活から自分で逃げ出した
コジロウはムサシとは逆に、とても裕福な家庭で育ちました。
巨大な屋敷で暮らし、何人もの使用人に囲まれるほどの大富豪の息子です。
しかし、本人はその生活を嫌っていました。
幼い頃から大量の勉強や習い事をさせられ、自由に行動することができなかったためです。
さらに両親からは、許嫁のルミカとの結婚を求められていました。
ルミカは見た目こそムサシによく似ていますが、コジロウを自分の理想通りにしようとする非常に厳しい人物です。
コジロウは財産も地位も捨て、自分の自由を求めて屋敷を飛び出しました。
いつもロケット団で失敗ばかりしているコジロウですが、実は自ら裕福な生活を捨てた人物なのです。
ニャースは人間の言葉を覚えるために必死に努力した
ニャースがなぜ人間の言葉を話せるのかは、アニメ第70話「ニャースのあいうえお」で明かされています。
野良ポケモンだったニャースは、メスのニャース「マドンニャ」に恋をしました。
ところが、マドンニャは人間のような暮らしを好み、普通のニャースには興味を示しません。
そこでニャースは、人間になれば振り向いてもらえると考えました。
文字を覚え、人間の言葉を練習し、さらに二足歩行まで身につけます。
ところが、ようやく人間のように話せるようになっても、マドンニャから受け入れてもらうことはできませんでした。
さらにニャースは、人間の言葉や二足歩行を覚えることに多くの能力を使ったため、「ねこにこばん」を覚えられないとも語っています。
人間の言葉を話すニャースは単なるギャグ設定ではなく、努力と挫折の結果だったのです。
パラセクトの本体は背中のキノコだった
「パラセクトの本体はキノコ」という話は、一見すると怖い都市伝説のように聞こえます。
しかし、これは公式設定です。
パラスの背中には小さなキノコが生えています。
進化してパラセクトになると、そのキノコが巨大化し、虫の体を動かすようになります。
ポケモン図鑑でも、背中のキノコが虫の体を操っていることが説明されています。
パラセクトの目が白く、パラスのころとは違った印象になっているのも特徴です。
ファンの間では以前から「進化した結果、虫よりキノコの方が主役になったのではないか」と話題になっていました。
実際の公式設定もかなり近く、ポケモンの中でも特に不思議で少し怖い生態を持っています。
ゲンガーはピクシーの影という説がある
ファンの間で長く語られている都市伝説の一つが、「ゲンガーはピクシーの影なのではないか」という説です。
ゲンガーとピクシーを比べると、耳のような部分や手足の形など、シルエットに似ている部分があります。
体重もピクシーが40.0kg、ゲンガーが40.5kgと非常に近くなっています。
さらにゲンガーの分類は「シャドーポケモン」です。
こうした共通点から、
「ピクシーの影がゲンガーになった」
「ピクシーが命を落とした後の姿がゲンガーなのではないか」
といった説が広まりました。
しかし、公式がゲンガーとピクシーに直接的な関係があると発表したことはありません。
非常によくできた考察ではありますが、現在のところは都市伝説の一つです。
サトシが10歳のままなのはホウオウの力ではない
サトシは長い間旅を続けていますが、年齢はずっと10歳として扱われてきました。
そこから生まれた有名な説が、
「第1話でホウオウを見たため年を取らなくなった」
という都市伝説です。
ホウオウには願いや永遠の命を連想させるイメージがあるため、この説は広く知られるようになりました。
しかし、制作側がこの設定を認めたことはありません。
湯山邦彦監督は、サトシを「永遠の10歳」として描いていることを説明しています。
いつの時代の子どもでも、サトシと同じ目線で冒険を楽しめる主人公にするためです。
つまり、年を取らない理由は作中の特殊な力ではなく、作品作りの考え方によるものと考えた方が自然です。
「サトシ昏睡説」は公式設定ではない
ポケモンの都市伝説で特に有名なのが「サトシ昏睡説」です。
第1話でオニスズメの大群に襲われた後、サトシは意識を取り戻しておらず、その後の冒険はすべて夢だったという内容です。
長い間10歳のままであることや、現実では起こりそうにない出来事が続くことなどが、この説の根拠として挙げられています。
しかし、公式や制作スタッフが「冒険はすべて夢だった」と認めたことはありません。
また、首藤剛志氏が考えていた「大人になったサトシが少年時代を振り返る最終回案」と、この昏睡説が混同されることもあります。
この二つは別の話です。
首藤氏の構想には実際の発言という根拠がありますが、「第1話からサトシが眠ったまま」という説はファンの間で生まれた都市伝説です。
ポケットモンスターの裏設定まとめ
『ポケットモンスター』には、テレビアニメだけでは分からない数多くの裏設定があります。
特に初期シリーズ構成を担当した首藤剛志氏の小説版やコラムを見ると、現在よりも現実的で少し厳しい世界が考えられていたことが分かります。
サトシの父親と祖父、21人兄弟だったタケシ、マサラタウンの旧名など、本編とは違う設定も少なくありません。
一方で、GSボールとセレビィのように制作上の都合で途中から使われなくなった設定もあります。
「ゲンガーはピクシーの影」「サトシはホウオウの力で年を取らない」「サトシの冒険はすべて夢」といった有名な話については、公式に認められた設定ではありません。
ポケモンの裏設定を見るときは、「アニメ本編」「小説版」「制作スタッフの構想」「ゲームの図鑑」「ファンの考察」を分けて考えることが大切です。
それぞれを知ったうえでもう一度初期のアニメを見直すと、サトシやピカチュウ、ロケット団の見え方も少し変わってくるかもしれません。

仲間たちと暮らしていた頑固者ポケモンのザルードは、 ある日、川辺で人間の赤ん坊を見つける。
「ニンゲン、これが……」 見捨てられないザルードは、 森の掟に反して、赤ん坊をココと名付け、 群れを離れてふたりで暮らすことを決意する。
ポケモン映画中、もっとも高い評価を獲得している作品のひとつです。





















