『テニスの王子様』といえば、越前リョーマをはじめとする個性的な選手と、現実のテニスでは考えられない必殺技が魅力の作品です。
しかし、作品が生まれるまでの話を調べてみると、現在とはまったく違う初期構想があったことが分かります。
さらに、連載途中で試合結果が変更されたり、ミュージカルで生まれたネタが原作へ戻ってきたりと、普通の漫画ではあまり見られない裏話も残されています。
今回は、許斐剛氏が明かした制作秘話を中心に、『テニスの王子様』の意外な裏設定を紹介します。

天才テニス少年・越前リョーマと、青春学園テニス部の仲間たちが全国の強豪に挑む『テニスの王子様』。
個性豊かな選手たちの必殺技や熱い試合、ライバルとの成長ドラマが次々と展開し、最後まで夢中で読み進められます。
名勝負の数々をまとめてじっくり楽しみたい方におすすめの、完全版全36巻セットです。
本来の主人公は越前リョーマではなく遠山金太郎だった

『テニスの王子様』最大級の裏設定といえるのが、主人公そのものが変更されていたことです。
連載前に許斐剛氏が考えていた主人公は、四天宝寺の遠山金太郎につながるキャラクターでした。
元気いっぱいで関西弁を話し、大人にも負けないような少年が物語の中心になる予定だったのです。
そして、その主人公の前に立ちはだかるライバルとして作られたのが、越前リョーマでした。
ところが、クールで生意気なリョーマのキャラクターに手応えを感じたことから、リョーマを主人公にした『テニスの王子様』が生まれました。
のちに許斐氏は、もともとの主人公だった金太郎の設定を捨てず、四天宝寺の遠山金太郎として作品へ登場させています。
リョーマはあえて「ライバル型主人公」にされていた
少年漫画の主人公といえば、明るく熱血で感情を大きく出す人物が定番です。
しかし、リョーマは最初からその逆を狙って作られました。
許斐剛氏は、リョーマについて「ジャンプらしい熱い主人公ではなく、クールなライバルタイプを主人公に据えた」と説明しています。
ただし、無口でクールな人物だけを中心にすると、作品全体まで暗くなる可能性があります。
そこで許斐氏は、リョーマだけを主人公と考えるのではなく、「青春学園中等部のチーム全体を主人公」として作りました。
桃城、海堂、不二、菊丸、乾、手塚など、それぞれに強い個性と物語が用意されているのは、この考え方が理由だったのです。
氷帝学園は「ホスト集団」という発想から生まれた
跡部景吾を中心に、多くの人気キャラクターを生み出した氷帝学園。
豪華な学校や大勢の部員など、最初から細かく世界観を作り込んで誕生したようにも見えます。
ところが、出発点はかなり変わったものでした。
許斐剛氏によると、「完全にワンマンなヤツが率いているホスト集団みたいな学校を出したい」という発想から氷帝が作られたそうです。
そして、その集団を率いる人物として誕生したのが跡部景吾でした。
「勝つのは氷帝」という圧倒的な集団の雰囲気は、最初から普通のスポーツ強豪校とは違う方向を狙っていたことが分かります。
跡部景吾は最初から完璧な人物ではなかった
現在の跡部景吾は、ナルシストでありながら努力家で、後輩の面倒もよく見る人物として描かれています。
しかし、初期設定では今ほど内面まで作り込まれていませんでした。
許斐剛氏は、跡部について「ナルシスト」で「ちょっと嫌味」な人物として作ったと明かしています。
ところが物語が進むにつれて、努力を続ける一面や、周囲をよく見ている性格、先輩や先生には礼儀正しい部分などが追加されていきました。
さらに許斐氏は、跡部というキャラクターを育てたのは声優の諏訪部順一氏、ファンからの応援、アニメなどのさまざまな展開だったとも語っています。
作者だけですべてを完成させたのではなく、作品の人気とともに跡部自身も成長していったのです。
リョーマ対日吉戦は本来存在しなかった

関東大会の青学対氷帝で行われた、越前リョーマと日吉若の試合。
実は、この試合は最初の予定にはありませんでした。
許斐剛氏によると、当初リョーマは補欠のまま試合に出ない予定だったそうです。
ところが、すでに2、3試合ほど描いた段階で、許斐氏が「日吉とリョーマを戦わせたい」と考えるようになりました。
そこで考えられたのが、河村隆と樺地崇弘の試合を引き分けにする展開です。
勝敗が決まらない試合を作れば、本来存在しなかった第6試合まで進められます。
その結果として誕生したのが、補欠同士によるリョーマ対日吉でした。
最初から計算されていたように見える大会の流れが、実は連載途中で大きく変更されていたのです。
許斐剛氏は決めていた勝敗まで途中で変えることがある
リョーマ対日吉戦だけが特別だったわけではありません。
許斐剛氏は、漫画を描く際に「5分前と逆のことを考えつく」「描き始めてから全部直すこともある」と明かしています。
試合の勝敗についても同じです。
一般的には「この流れならAになる」と読者が考える場面でも、許斐氏はあえて「普通なら選ばないB」を選ぶことを意識していました。
理由は、読者が予想していることをそのまま描きたくないからです。
つまり『テニスの王子様』で突然予想外の展開が起きるのは、行き当たりばったりというより、読者の予想を外すこと自体が許斐氏の作風だったといえます。
「テニヌ」と呼ばれる超人テニスは意図的だった

『テニスの王子様』は連載が進むにつれて、現実のテニスから大きく離れた技が増えていきました。
分身したように見えるプレー、五感を奪うテニス、ブラックホール、馬に乗りながらのテニスなど、もはや能力バトル作品のような展開も登場します。
あまりの常識外れな内容から、ファンの間では普通の「テニス」と区別するように「テニヌ」と呼ばれるようになりました。
そのため、「作者も途中から収拾がつかなくなったのでは」と考えた読者もいたかもしれません。
しかし、実際はかなり意図的です。
許斐剛氏は、リアルなスポーツ漫画ではなく「漫画にしかできないもの」を描きたかったと説明しています。
さらに『ONE PIECE』のようなファンタジー作品にも負けたくないという気持ちがあり、子どもが夢中になれる必殺技を意識していました。
常識外れなテニスは暴走の結果ではなく、『テニスの王子様』をほかのスポーツ漫画とは違う作品にするための仕掛けだったのです。
読者からツッコまれるところまで作者の計算だった
さらに驚くのは、常識外れな展開を描くだけでなく、その後の読者の反応まで許斐剛氏が意識していたことです。
透明になる選手や馬上テニスなどについて、許斐氏は「もちろん」狙って描いていたと明かしています。
近年では「これは話題になるだろう」「記事にするならここが見出しになるだろう」と考えることまであるそうです。
そして、奇抜な展開へツッコミを入れる読者についても、自分の「術中にハマっている」という趣旨の発言をしています。
ネットでは「テニプリがまたすごいことを始めた」とたびたび話題になりますが、それすら作品を楽しませる仕掛けの一部だったようです。
テニミュで生まれた設定が原作へ逆輸入された
『テニスの王子様』は、漫画からアニメやミュージカルへ設定が広がっただけではありません。
逆に、ミュージカルで生まれた表現が漫画へ戻ってきたこともあります。
代表的なのが、六角中の佐伯虎次郎です。
ミュージカルで佐伯を演じた伊礼彼方氏について「無駄に男前」という表現が生まれました。
許斐剛氏はこの言葉を気に入り、のちに原作へ「無駄に男前」という表現を逆輸入しています。
許斐氏自身も、原作、アニメ、ミュージカルが互いに描ききれなかった部分を補い合っていると説明しています。
原作がすべての始まりでありながら、別のメディアで育った設定が再び原作へ戻ってくるという珍しい作品なのです。
越前リョーガは漫画より先に劇場版で誕生していた
現在では『新テニスの王子様』の重要人物となっている越前リョーガ。
実は、最初から漫画に登場していたキャラクターではありません。
リョーガが初登場したのは、2005年公開の劇場版『テニスの王子様 二人のサムライ The First Game』です。
劇場版では「リョーマの兄」を名乗る謎の人物として登場しました。
その後、リョーガは『新テニスの王子様』の物語にも登場します。
しかも脇役として終わらず、物語の最後ではリョーマとの兄弟対決が描かれるほど重要な存在となりました。
2026年発売の最終48巻でも、リョーマとリョーガの対決が物語の大きな中心になっています。
映画で先に生まれた人物が、約20年後には原作の最後を左右する人物になったという非常に珍しい例です。
幸村精市は当初「試合をしない優しい人物」だった
「神の子」と呼ばれ、相手の五感まで奪ってしまう幸村精市。
現在の姿からは想像しにくいのですが、最初から恐ろしい強敵として作られたわけではありません。
許斐剛氏は、幸村について当初は「試合をしないやさしいイメージ」で作っていたと明かしています。
ところが物語が進み、全国大会決勝でリョーマと戦うことになったことでキャラクター像が大きく変化しました。
病気や苦しい経験を乗り越えたことで、「何事も諦めない強い人物」という現在の幸村へと育っていったそうです。
跡部と同じく、連載開始時からすべての性格が完成していたのではなく、物語の中で作者自身のイメージも変わっていったキャラクターなのです。
幸村の病気は「ギラン・バレー症候群」ではない
幸村精市については、長年広まっている大きな誤解があります。
それが「幸村はギラン・バレー症候群だった」という説です。
作中では、幸村の病気について「ギラン・バレー症候群に酷似した免疫系の難病」とされています。
つまり、ギラン・バレー症候群そのものという設定ではありません。
ところが実在する病名を作中で出したことで、幸村が実際にその病気を患っていると受け取った読者もいました。
また、作中では幸村が手術を受けていますが、実際のギラン・バレー症候群に対して手術を行うわけではありません。
こうした誤解を招いたことについて、単行本27巻の「りっかいしつもん箱」では説明とお詫びが掲載されています。
ネット上では幸村の驚異的な回復力からさまざまな考察も生まれていますが、少なくとも公式設定として「ギラン・バレー症候群だった」と断定するのは正しくありません。
テニスの王子様の裏設定まとめ
『テニスの王子様』は、最初からすべてを決めて作られた作品ではありません。
主人公になるはずだった金太郎が後から四天宝寺の選手として登場し、本来存在しなかったリョーマ対日吉戦が連載途中で誕生するなど、物語を描きながら設定が大きく変化しています。
さらに跡部や幸村のように、連載やアニメ、声優、ファンからの反応を受けながら人物像そのものが成長したキャラクターもいます。
そして何より興味深いのは、「テニヌ」とまで呼ばれた常識外れのテニスが、偶然生まれたものではなかったことです。
読者が驚き、ツッコミを入れ、それが話題になるところまで考えて描くことが、『テニスの王子様』ならではの魅力につながっていたのでしょう。

天才テニス少年・越前リョーマと、青春学園テニス部の仲間たちが全国の強豪に挑む『テニスの王子様』。
個性豊かな選手たちの必殺技や熱い試合、ライバルとの成長ドラマが次々と展開し、最後まで夢中で読み進められます。
名勝負の数々をまとめてじっくり楽しみたい方におすすめの、完全版全36巻セットです。





















