映画『風の谷のナウシカ』には、映画を見ただけでは分からない驚きの設定が数多く存在します。
特に宮﨑駿氏が描いた原作漫画は全7巻あり、映画で描かれている物語は原作のおよそ2巻目までです。
そのため、映画では「腐海と人間の共存」を描いた物語に見えますが、原作を最後まで読むと世界の見え方が大きく変わります。
腐海はなぜ存在するのか。
ナウシカたちは何者なのか。
巨神兵は何のために作られたのか。
今回は『風の谷のナウシカ』の映画では語られなかった裏設定を紹介します。
※原作漫画の終盤までの重大なネタバレを含みます。

巨大産業文明滅亡後1000年、人類はわずかに残された居住可能な土地に点在していた。
「風の谷」の族長の娘ナウシカは、世界を再生すべく様々な試練に立ち向かい、ついには世界の真実へとたどりついて行く。
一コマ一コマ緻密に描き込まれた絵と人類の生存を巡る普遍的なテーマ。
宮崎駿監督が12年にわたり描き続けた本作は、世代を超えて読み継がれる不朽の名作!
映画の物語は原作漫画の序盤にすぎない

まず知っておきたいのが、映画『風の谷のナウシカ』は物語全体を映像化した作品ではないということです。
宮﨑駿氏による原作漫画は全7巻あります。
徳間書店も、映画のもとになったストーリーは原作コミックスの「およそ2巻目まで」と説明しています。
しかも、単純に映画の続きが3巻から始まるわけではありません。
映画版では登場人物や国家、出来事などが整理・再構成されているため、原作漫画と映画は途中から大きく異なる物語になっていきます。
映画を『ナウシカ』のすべてだと思っていると、原作の壮大さにはかなり驚かされます。
腐海は旧世界の人類によって作られていた
『風の谷のナウシカ』最大の秘密ともいえるのが「腐海」の正体です。
映画ではナウシカが、腐海の植物が大地の毒を取り込み、きれいな水や結晶へ変えていることに気づきます。
しかし原作では、さらに驚くべき事実へたどり着きます。
腐海は単なる自然現象ではありません。
旧世界の人類が汚染された世界を浄化するために作り出した生態系だったのです。
原作終盤では、ナウシカが旧世界の人類によって腐海や王蟲が作られ、人間やその他の生物にも手が加えられていたことを知ります。
つまり、人間を苦しめているように見えた腐海は、長い時間をかけて地球そのものを修復している巨大な浄化装置でもあったのです。
王蟲も旧人類によって作られた生命だった
腐海と深く結びついている巨大生物「王蟲」も、原作の世界観では重要な秘密を持っています。
王蟲を含む腐海の生態系は、世界を浄化する計画の中で旧世界の人類によって作り出された存在であることが示されます。
しかし、王蟲は命令通りに動く機械のようには描かれていません。
仲間の死を悲しみ、怒り、ナウシカと精神的に触れ合うなど、人間以上とも思える深い精神性を持っています。
人間が作った生命でありながら、作った人間の思惑を超えた存在になっているところも『ナウシカ』の面白さです。
ナウシカたち人類も身体を作り変えられていた
人工的に作られたのは腐海だけではありません。
実はナウシカたちの時代を生きている人類も、旧世界の人類によって身体を作り変えられています。
原作では、汚染された世界でも生きられるよう、人間やその他の生物に手が加えられていたことが明らかになります。
つまりナウシカたちは、文明崩壊後の世界に偶然適応した人類というわけではありません。
旧世界の人類が進めた「地球を浄化する計画」の中で生きるために生み出された人類だったのです。
世界がきれいになるとナウシカたちは生きられない

ここから『ナウシカ』の物語は一気に重くなります。
腐海が長い時間をかけて地球を浄化していけば、いつか汚染のない美しい世界が戻ってきます。
一見すると希望のある話に思えます。
ところがナウシカたちの身体は、汚染された世界で生きられるよう作り変えられています。
そのため原作では、腐海による浄化が完了した清浄な環境では、現在の人類はそのまま生きることができないことが明かされます。
つまり、
「腐海が世界をきれいにしてくれる」
という事実は、
「世界がきれいになるほど、現在の人類は生きられなくなる」
という残酷な問題と表裏一体なのです。
映画だけを見たときとは、腐海の意味がまったく違って見えてきます。
シュワの墓所には次の時代のための計画が残されていた
旧世界の人類は、ただ地球を浄化して終わりにするつもりではありませんでした。
原作終盤に登場する「シュワの墓所」には、旧文明の知識や生命に関する情報が保存されています。
そして世界の浄化が終わった後の未来まで計画されていました。
墓所は、現在の人類が自分たちの力なしでは生きていけないとナウシカに語ります。
しかしナウシカは、その管理された未来を受け入れません。
最終的には巨神兵オーマの力を使い、墓所とそこに保存されていたものを破壊します。
人類の未来を保証する巨大なシステムを壊すという、非常に重い決断でした。
巨神兵はただの大量破壊兵器ではなかった
映画に登場する巨神兵といえば、火の七日間で世界を焼き尽くした恐ろしい兵器という印象があります。
しかし原作の巨神兵は、それだけの存在ではありません。
原作に登場する巨神兵オーマは知性を持ち、自らを戦士であり「調停者」「裁定者」とする存在として描かれます。
つまり巨神兵は単純に敵を破壊する兵器というより、人間同士の争いに介入して裁きを下す「人工の神」に近い存在でもあったのです。
旧文明の人類は、自分たちの争いを収めるために、人間を超えるほど強大な存在まで作り出してしまったことになります。
その結果、その巨神兵たちによって文明そのものが滅びる「火の七日間」が起きたと考えると、非常に皮肉な設定です。
巨神兵オーマはナウシカを「母」と認識する
映画では巨神兵とナウシカの間に特別な関係はありません。
しかし原作では大きく異なります。
目覚めた巨神兵はナウシカを母親のような存在として認識します。
ナウシカは巨神兵に「オーマ」という名前を与え、オーマもナウシカに強い愛着を見せるようになります。
映画では恐ろしい大量破壊兵器だった巨神兵が、原作ではナウシカの子どものような存在になっていくのです。
そして最終的にオーマは、ナウシカの決断を実行する重要な存在になります。
巨神兵の印象が映画と原作で大きく異なる理由のひとつです。
ナウシカには10人の兄姉がいた
映画ではほとんど描かれていませんが、ナウシカの家庭にも悲しい設定があります。
ナウシカには10人の兄姉がいました。
しかし無事に育ったのはナウシカだけでした。
原作終盤ではナウシカ自身が母親について語る場面があり、母には決して癒えることのない悲しみがあり、自分を愛してはいなかったと振り返っています。
誰に対しても深い愛情を向けるナウシカが、母親から十分な愛情を受けられなかった人物だったというのは非常に印象的です。
さらに原作では、巨神兵オーマから「母」として慕われます。
母から愛されなかった少女が、今度は自分自身が「母」の立場になるという構図も、原作を読み解くうえで興味深いポイントです。
クシャナの母親にも悲惨な過去がある
ナウシカだけでなく、クシャナにも映画ではほとんど描かれない複雑な家庭事情があります。
原作では、クシャナを狙って毒が盛られた杯を母親が飲んでしまいます。
その結果、母親は精神を病み、幽閉されました。
後にクシャナが母親と再会しても、母親は目の前にいるクシャナを娘として認識できず、人形をクシャナだと思って子守歌を歌います。
映画版のクシャナは冷徹な軍人という印象が強い人物です。
しかし原作を読むと、王家の権力争いに巻き込まれ、家族から命まで狙われてきた人物であることが分かります。
ナウシカとクシャナは正反対の人物のように見えますが、どちらも母親との関係に深い傷を抱えているという共通点があります。
実は『風の谷のナウシカ』はスタジオジブリ制作ではない
最後は物語ではなく制作に関する意外な事実です。
『風の谷のナウシカ』は現在スタジオジブリを代表する作品のひとつとして扱われています。
しかし映画が公開されたのは1984年3月11日です。
スタジオジブリが設立されたのはその翌年の1985年でした。
そのため、映画『風の谷のナウシカ』を実際に制作した会社はスタジオジブリではなく「トップクラフト」です。
スタジオジブリ公式サイトにも「制作はトップクラフトです」と明記されています。
現在ではジブリ作品として紹介されることが多いため、意外と知られていない制作秘話です。
『エヴァンゲリオン』の庵野秀明も原画を担当していた
もうひとつ有名な制作秘話があります。
後に『新世紀エヴァンゲリオン』を手がける庵野秀明は、若手アニメーターだった時代に映画『風の谷のナウシカ』へ参加しています。
株式会社カラーが公開している庵野秀明の仕事履歴にも、1984年の『風の谷のナウシカ』で「原画」を担当したことが正式に記載されています。
後に巨大な人型兵器が登場する『エヴァンゲリオン』を生み出す人物が、『ナウシカ』の制作にも参加していたというのは面白いところです。
まとめ:原作を知ると『ナウシカ』はまったく違う物語に見える

映画『風の谷のナウシカ』だけを見ると、人間と自然がどう共存していくのかを描いた物語という印象が強く残ります。
しかし原作漫画を最後まで読むと、テーマはさらに複雑になります。
腐海は旧人類によって作られていたこと。
王蟲も旧人類が作り出した生命だったこと。
ナウシカたち人類自身も、汚染された世界に合わせて作り変えられていたこと。
そして世界が完全に浄化されれば、現在の人類は生きていけません。
それでもナウシカは、旧文明が用意した未来に従うことを拒否します。
「正しく設計された未来」を選ぶのではなく、たとえ先が分からなくても、今を生きている生命が自分たちで未来を選ぶ道を選んだのです。
映画を見たことがある人ほど、原作を読むと『風の谷のナウシカ』という作品に対する印象が大きく変わるかもしれませんよ。

巨大産業文明滅亡後1000年、人類はわずかに残された居住可能な土地に点在していた。
「風の谷」の族長の娘ナウシカは、世界を再生すべく様々な試練に立ち向かい、ついには世界の真実へとたどりついて行く。
一コマ一コマ緻密に描き込まれた絵と人類の生存を巡る普遍的なテーマ。
宮崎駿監督が12年にわたり描き続けた本作は、世代を超えて読み継がれる不朽の名作!





















