『はじめの一歩』は、1989年から続く森川ジョージ氏のボクシング漫画です。
アニメをきっかけに作品を知った人も多く、幕之内一歩や鷹村守、宮田一郎など、個性的なボクサーたちが長く愛されています。
そんな『はじめの一歩』には、作品を読んでいるだけではわからない制作秘話や、森川氏が後になって明かした設定が数多くあります。
さらに、鷹村の右目や一歩の現役復帰など、作中で答えが出ていないために長年議論されている謎も少なくありません。
今回は、公式に明かされた裏話を中心に、有名な考察や都市伝説についても紹介します。
一歩は伊達英二に勝つ予定だった

幕之内一歩が初めて大きな敗北を経験した相手が、日本フェザー級王者の伊達英二です。
実は森川ジョージ氏によると、当初は一歩が伊達に勝つ予定だったそうです。
ところが、試合を描いていくうちに伊達という人物の存在感がどんどん大きくなり、最終的には一歩を敗れさせる展開へ変更されました。
現在では一歩の成長を語るうえで欠かせない敗戦ですが、最初から決められていた結末ではなかったわけです。
森川氏は、試合を描いている途中でキャラクターが予想以上の力を見せることがあり、予定していた勝敗を変更する場合があることも明かしています。
その代表例が、一歩対伊達だったのです。
一歩と宮田は森川氏の頭の中ですでに何度も戦っている
『はじめの一歩』最大の宿題とも言えるのが、一歩と宮田一郎の公式戦です。
二人は鴨川ジムで出会った頃から互いを強く意識しており、いつか公式のリングで戦う約束を交わしています。
しかし、長期連載となった現在まで、その試合は実現していません。
森川氏は、一歩と宮田について自分の頭の中では何度も戦わせていると語っています。
面白いのは、一歩の試合を描いている時に考えると一歩が勝ち、宮田の試合を描いている時に考えると宮田が勝つという点です。
それほど二人の実力を近いものとして考えているのでしょう。
「一歩対宮田が最終戦になる」という説も有名ですが、森川氏が最終戦になると明言したわけではありません。
二人の約束がどのような形で決着するのかは、今も作品最大級の謎として残っています。
最終回は最後のセリフまで考えられている
長期連載作品だけに、「『はじめの一歩』の結末は本当に決まっているのか」と気になっている人も多いでしょう。
森川氏は過去のインタビューで、最終回だけでなく最後のセリフまで考えていると明かしています。
一歩と久美の関係をどのように終わらせるのかについても、すでに考えがあるそうです。
ただし、すべての展開が完全に固定されているわけではありません。
一歩対伊達のように、実際に描き始めると予定していた勝敗が変わることもあります。
そのため「最終回は何十年も前から完全に決定している」という噂は少し違います。
大きなゴールは存在するものの、そこへ向かう途中でキャラクターが物語を変えていく可能性もあるようです。
一歩はパンチドランカーだと確定したわけではない
一歩が現役を離れる大きな原因となったのが、パンチドランカーへの不安です。
作中では距離感が狂ったり、以前なら避けられた攻撃を受けたりする場面が増え、一歩自身も体への異変を感じるようになります。
そのため、読者の中には「一歩はパンチドランカーになったから、もう復帰できない」と考えている人もいるでしょう。
しかし、森川氏は過去のインタビューで、医師が一歩をパンチドランカーだと断定したわけではないことを指摘しています。
作中でも、一歩をパンチドランカーだと強く考えているのは主に久美です。
つまり、一歩が本当に復帰できない体なのかについては、現在も答えが出ていません。
一歩がセコンドとしてリングの外からボクシングを学び直していることもあり、「現役復帰への準備ではないか」という考察が続いています。
一歩がもう一度グローブを着けるのかどうかは、物語後半の最大の注目点です。
八木晴彦には漫画で明かされていない本業がある
鴨川ジムのマネージャーとして働いている八木晴彦。
釣りや麻雀では鷹村たちが恐れるほどの実力を持ち、ボクシング以外でも妙に能力が高い人物です。
そんな八木には、長年漫画で明かされていなかった設定があります。
森川氏は2026年のインタビューで、まだ漫画では明かしていない設定として、八木の本業が会計士であることを語りました。
つまり、八木は鴨川ジムの仕事だけで生活している人物ではなかったのです。
会計士として働きながらジムを支え、釣りも麻雀も一流という非常に多才な人物になります。
森川氏は八木について、自分自身と重なるところのあるキャラクターだという趣旨の話もしています。
作品に登場してから長い年月が経ってから明かされた、本当の意味での裏設定です。
木村は間柴戦を最後に本当に引退する覚悟だった
木村達也の試合で最も有名なのが、間柴了との日本ジュニアライト級タイトルマッチです。
圧倒的なリーチを持つ間柴を攻略するため、木村は必殺技「ドラゴンフィッシュ・ブロー」を完成させました。
この試合で木村は、負ければ引退するという覚悟を固めています。
試合後には実際に一度リングを離れる決断をしますが、その後「木村達也」から「木村タツヤ」へリングネームを変更して復帰しました。
ネット上では、「森川氏も本当に木村を引退させる予定だったが、試合を描いているうちに撤回した」という制作秘話も広く語られています。
ただし、この部分について森川氏本人が明言した確かな資料は確認されていません。
そのため、作者が予定を変更したという部分まで事実として断定するのは避けた方がよいでしょう。
それでも間柴対木村が作品屈指の名勝負であることは間違いなく、読者人気も非常に高い試合となっています。
鷹村の右目には長年「網膜剥離説」がある

鷹村守には、長年ファンの間で議論されている重大な疑惑があります。
それが「右目に問題を抱えているのではないか」という説です。
作中では鷹村が右側から来た攻撃への反応に遅れるように見える場面や、目の異常を疑わせる描写が何度か登場します。
一歩自身も鷹村の目を心配し、網膜剥離について調べたことがありました。
しかし、その後の試合でも鷹村は世界王者として戦い続けています。
現在まで「鷹村は網膜剥離である」と公式に確定したわけではありません。
そのため、単なる勘違いだったという見方と、まだ回収されていない長期的な伏線だという見方に分かれています。
森川氏自身も鷹村について、先を考えながら描いている部分があることを示唆しています。
右目の描写が本当に伏線なのか、それとも読者を惑わせる演出なのかは、まだ答えが出ていません。
鷹村が6階級制覇を急ぐのは鴨川会長のためという説
鷹村は世界の頂点に立った後も階級を上げ続け、複数階級制覇を目指しています。
そこで読者の間で語られているのが、「鷹村が急いでいるのは鴨川会長のためではないか」という説です。
鴨川源二は高齢になっており、作中では体調を崩したり、体への負担を感じさせたりする描写があります。
一方の鷹村は、鴨川会長に世界で結果を見せることへ強いこだわりを持っています。
そのため、「会長が元気なうちに自分の偉業を見届けてもらいたいのではないか」と考える読者が多いのです。
さらに鷹村自身の右目の疑惑と合わせて、「鷹村にも鴨川会長にも時間が残されていないのでは」という考察まで存在します。
ただし、鴨川会長が重い病気を抱えていると公式に発表されたわけではありません。
現時点では、作中描写から生まれた有名な考察のひとつです。
青木のカエルパンチとよそ見は本当に世界王者が使っていた
青木勝といえば、普通のボクサーなら思いつかないような奇策を使うことで知られています。
代表的なのが「カエルパンチ」と「よそ見」です。
ギャグ漫画のような技に見えますが、実はどちらも現実のボクシングと深い関係があります。
元世界王者の輪島功一氏は、実際の試合で大きく沈み込んでから飛び上がるようにパンチを放つ「カエル跳び」と呼ばれる動きを見せています。
さらに輪島氏は、相手の視線をそらすために自分から別方向を見る「よそ見」に近い作戦も実戦で使用しました。
つまり、青木の技は漫画だから生まれた完全なデタラメではありません。
むしろ「こんなことを本当にやる世界王者がいた」という現実の方が驚きです。
『はじめの一歩』がボクシングの歴史や実際の選手をよく研究して作られていることがわかる例でもあります。
『はじめの一歩』はもともとアマチュアボクシング漫画だった

現在の『はじめの一歩』はプロボクシングの世界を描いた作品です。
しかし、最初から現在の形だったわけではありません。
森川氏によると、初期の企画ではアマチュアボクシングを題材にする予定でした。
その後、企画を何度も練り直した結果、現在のプロボクシング漫画へ変更されています。
連載開始までには長い準備期間があり、森川氏は約1年間にわたってネームを描き直したそうです。
その量は合計すると約1000ページにもなったとされています。
現在では日本を代表するボクシング漫画ですが、その裏には大量のボツネームが存在していたのです。
「強いってなんだろう?」は森川氏自身の悩みだった
一歩がボクシングを始めるきっかけとなったのが、「強いってどういうことだろう」という疑問です。
一歩は日本王者になっても、世界の強豪と関わるようになっても、この問いに明確な答えを出せていません。
実は、このテーマには森川氏自身の経験が関係しています。
『はじめの一歩』を始める前、森川氏は漫画家として思うような結果を出せず、「漫画が上手いってなんだろう」と悩んでいたそうです。
そこで自分自身の疑問を、一歩の「強いってなんだろう」という問いへ置き換えました。
つまり、一歩が探し続けている「強さの正体」は、森川氏自身が漫画家として探していた答えでもあります。
長期連載になっても簡単に答えを出さない理由が、この制作背景を知るとよくわかります。
森川氏は当初ボクシング漫画を描きたくなかった
現在では森川氏といえばボクシング漫画という印象があります。
実際にボクシングジムを運営し、選手のセコンドにもつくほど深く競技に関わっています。
しかし、『はじめの一歩』を始める前は「ボクシング漫画だけは描きたくない」と考えていたそうです。
大きな理由が、『あしたのジョー』というあまりにも有名な作品の存在でした。
同じ『週刊少年マガジン』でボクシング漫画を描けば、比較されることは避けられません。
さらに当時は他の雑誌にも人気ボクシング漫画があり、競争の激しい題材でもありました。
森川氏は『はじめの一歩』以前に連載が思うように続かない経験を重ねており、この作品を「最後の挑戦」に近い気持ちで描き始めたと語っています。
避けたかった題材が、結果として35年以上続く代表作になったというのは面白い話です。
一歩役の喜安浩平氏は声優経験がほとんどない状態で選ばれた
アニメ版ならではの裏話もあります。
主人公・幕之内一歩を演じている喜安浩平氏にとって、『はじめの一歩』は声優として大きなスタートとなった作品でした。
喜安氏はオーディション後、自分が最終候補の中でも特に経験が少なかったという話を聞いたと振り返っています。
そこで制作側には、「最初から完成された演技では、一歩が成長していく作品として面白くない」という考えがあったそうです。
ボクシング初心者だった一歩が試合を重ねながら成長していくように、声を演じる喜安氏自身も作品と一緒に成長していくことになります。
結果として、一歩の少し素朴で不器用な話し方はキャラクターの大きな特徴になりました。
主人公と声優が同じように経験を積んでいったという、アニメ版ならではの制作秘話です。
『はじめの一歩』にはまだ回収されていない謎が多い
『はじめの一歩』は試合の勝敗だけを楽しむ作品ではありません。
一歩と宮田の約束、一歩の現役復帰、鷹村の右目、鴨川会長の体調、そして一歩が探し続けている「強さ」の答えなど、長い時間をかけて描かれているテーマがいくつもあります。
さらに森川氏は、昔から先の展開を考えて伏線を入れることがあると明かしています。
そのため、何気ないセリフや小さな描写が何十巻も後になって意味を持つ可能性もあります。
最終回の形や最後のセリフまで考えられている一方、キャラクターを描いている途中で予定が変わることもあるのが『はじめの一歩』です。
だからこそ、長期連載になった現在でも「次に何が起こるかわからない」という面白さが残っているのでしょう。





















