1992年から『マーガレット』で連載され、少女漫画を代表する作品となった『花より男子』。
牧野つくしと道明寺司の恋を描いた作品という印象が強いですが、実は連載開始時には、つくしと道明寺が結ばれる予定すらありませんでした。
それどころか、本来のヒーローは花沢類で、道明寺は「嫌な人物」として作られていたのです。
さらに、F4は本当は5人だった、全員がお菓子に関係する名前になる予定だったなど、現在の作品からは想像できない初期設定も存在します。
作者・神尾葉子氏が明かした制作秘話を中心に、有名な考察への答えも含めて『花より男子』の知られざる裏設定を紹介します。
最初は花沢類が本命のヒーローだった

現在の『花より男子』を知っていると意外ですが、連載開始時にF4の中心人物として考えられていたのは道明寺司ではありません。
本来のメインは花沢類でした。
神尾葉子氏は2021年の講演で、作品を始める際には「4人の中で花沢類がメイン」と決めていたと明かしています。
そのため花沢類という名前も、読者の印象に残る名前を意識して付けられました。
神尾氏自身も後に、花沢類の立場が「道明寺に取られちゃいました」と振り返っています。
つまり、『花より男子』は最初から「つくしと道明寺の恋物語」として作られた作品ではなかったのです。
道明寺司は最初、本当に悪役だった
では、最初の道明寺はどのような立場だったのでしょうか。
神尾葉子氏によれば、道明寺は「初めは本当に悪役として登場させた」人物でした。
連載序盤の道明寺がかなり嫌な人物として描かれているのも、そのためです。
しかし、ただ意地悪で怖いだけでは少女漫画の登場人物として重すぎます。
そこで神尾氏は、好きな女の子に意地悪してしまう小学生のような幼さや、少し抜けた部分を加えていきました。
すると道明寺は、つくしに対して驚くほど一途な人物へ変化。
神尾氏も描いているうちに道明寺をかわいく感じるようになり、「気付いたら、主役に踊り出てきてしまった」と語っています。
予定されていたヒーローが交代したというより、悪役だった人物が物語の中で成長し、自分からヒーローの座を奪ったような形なのです。
20巻ごろまで花沢類と道明寺のどちらを選ぶか決まっていなかった

道明寺が目立つようになった後も、すぐにつくしの相手が決まったわけではありません。
神尾葉子氏は、連載の「20巻ぐらいまでは花沢類か道明寺かという余地を残しておいた」と明かしています。
その時点でも、今後の出来事によっては花沢類を選ぶ可能性が残されていました。
しかも当時の読者からは、「絶対に花沢類」「なぜ道明寺なのか」という内容の手紙がかなり届いていたそうです。
特に若い読者ほど花沢類の人気が高かったと神尾氏は振り返っています。
結果を知ってから読み返すと道明寺が最初から本命に見えますが、連載中の約20巻までは作者にも結論が見えていなかったわけです。
作者は何度もつくしを花沢類へ戻そうとしていた
さらに面白いのが、神尾葉子氏自身は途中でも花沢類ルートを捨てていなかったことです。
神尾氏によると、つくしの気持ちが道明寺へ傾いていく中で、作者として一生懸命花沢類のほうへ戻そうとしていたそうです。
ところが、どう描いてもつくしは道明寺へ向かってしまいました。
神尾氏自身は道明寺について、自分なら選びたくないタイプだと思いながら描いていたとも語っています。
それでも、つくしと道明寺は「磁石のように引きあってしまう」関係になっていきました。
作者がキャラクターを動かしたというより、成長したつくし自身が道明寺を選んでしまったという感覚だったようです。
21巻の「雨の別れ」で花沢類ルートには戻れなくなった

つくしの相手が道明寺へ固まった大きな転機も、神尾葉子氏本人が明かしています。
それが単行本21巻付近に描かれた、雨の中でつくしと道明寺が別れる場面です。
ここでつくしは、初めて道明寺への気持ちをはっきりと言葉にしました。
神尾氏はこの場面を描きながら、「もうここで描いてしまったら花沢類には戻れない」と考えたそうです。
そして、かなりの覚悟を持って描いた回だったと振り返っています。
現在では当然のように思える「つくしと道明寺」という組み合わせが決定的になったのは、かなり物語が進んでからだったのです。
「花沢類より道明寺」をタイトルが暗示していた説は偶然だった
『花より男子』には、長年ファンの間で語られてきた有名な考察があります。
「花」は花沢類。
「団子」は桜餅などに使われる道明寺粉、つまり道明寺司。
本来のことわざ「花より団子」に当てはめれば、「花沢類より道明寺」という意味になり、タイトルの時点でつくしが道明寺を選ぶことが暗示されていたのではないかという説です。
あまりにもきれいにつながるため、最初から仕込まれた伏線のようにも思えます。
しかし、神尾葉子氏本人がこの説について「そういうわけではなかった」と否定しています。
そもそも花沢類が当初のヒーローで、20巻ごろまで相手が決まっていなかったことを考えても、道明寺エンドをタイトルに仕込んでいたとは考えにくいでしょう。
結果として偶然、作品の結末にぴったり合うタイトルになったのです。
F4は本当は「F5」になる予定だった

F4は英徳学園を支配する4人組としてあまりにも有名ですが、最初から4人だったわけではありません。
初期構想では5人でした。
神尾葉子氏は、さまざまな分野の大金持ちの男子を5人集める予定だったと説明しています。
当時「先進五カ国蔵相会議」を「G5」と呼んでいたことから、「F5ならお金持ちっぽくていい」と考えたそうです。
ところが突然、編集部の都合で連載開始が早まります。
カラー原稿を急いで描くことになり、どうしても5人目まで描けませんでした。
そこで神尾氏が「4人でいいか」と判断し、F5はF4へ変更されます。
つまりF4が4人なのは、物語上の深い理由ではなく「5人目を描く時間がなかったから」だったのです。
なお、作品内ではF4は「Flower four(花の四人組)」と説明されています。
F4は全員がお菓子に関係する名前になる予定だった
F4の名前にも、現在とは違う初期構想がありました。
神尾葉子氏は当初、F4全員をお菓子に関係する名前にするつもりだったそうです。
最初に考えたのが「道明寺」。
道明寺粉が桜餅などに使われることから選ばれました。
その後、残りの人物にも同じようにお菓子に関係する名前を考える予定でしたが、ここでも連載開始の前倒しが影響します。
名前を考える時間がなくなり、お菓子由来として考えられたのは道明寺だけになってしまいました。
もし予定通り進んでいたら、花沢類、西門総二郎、美作あきらも現在とはまったく違う名前だった可能性があります。
西門総二郎の名前は沖田総司から生まれた
お菓子の名前を考える時間がなくなった一方、西門総二郎には別の由来があります。
神尾葉子氏は司馬遼太郎氏の小説『燃えよ剣』が好きで、特に新選組の沖田総司がお気に入りだったそうです。
神尾氏は講演の中で、沖田総司の幼名として「総二郎」という名前を知り、「誰かにこの名前をつけよう」と考えたと説明しています。
そこで西門に「総二郎」という名前が付けられました。
F4全員の名前に共通した壮大な法則があるように見えますが、実際には道明寺、西門、花沢類で名前が決まった理由もかなり違っていたようです。
道明寺の髪はドレッドヘアになる予定だった

道明寺といえば、独特なくるくるした髪型も大きな特徴です。
しかし、最初に考えられていた髪型は現在の形ではありませんでした。
神尾葉子氏は、美形の男子を4人描き分けるため、髪型で違いを作ろうとしたと説明しています。
普通の王子様ならサラサラした髪になるため、道明寺には少し笑える要素を加えようと考え、当初はドレッドヘアを想定していました。
ところが描いているうちに、現在のチョココロネのようなくるくるした髪型へ変わっていったそうです。
さらに、ことわざを間違えるなどの言い間違いも意図的な設定でした。
完璧な金持ちで頭まで良ければ嫌な人物になってしまうため、抜けた部分を作ることで「憎めない道明寺」にしたと神尾氏は語っています。
現在では道明寺の魅力となっている特徴の多くが、最初の「怖すぎる悪役」をやわらげるために生まれていたのです。
花沢類などF4に特定の実在モデルはいない
人気作品になると、「このキャラクターには実在するモデルがいるのではないか」という説が生まれます。
『花より男子』でも、花沢類や道明寺のモデルについてさまざまな噂が語られてきました。
しかし、神尾葉子氏はキャラクターのモデルについて「ほぼ、というかいなくて」と答えています。
最初に大まかな人物像だけを考え、そこへ物語の中で出来事を重ねながらキャラクターを完成させていく方法だったそうです。
そのため、「花沢類は特定の俳優やミュージシャンがモデル」という有名人モデル説については、少なくとも神尾氏本人の説明とは一致しません。
特定の誰かを漫画化したのではなく、物語の中で花沢類という人物そのものが作られていったと考えるのが自然でしょう。
『花より男子』誕生のヒントは渋谷のチーマーだった
超お金持ちの男子グループが学校を支配しているという設定は、どこから生まれたのでしょうか。
意外にもヒントになったのは、1990年代の渋谷で知られていた「チーマー」でした。
当時は名前を付けた若者のグループが集まり、強いグループが街で大きな存在感を持つことがありました。
神尾葉子氏自身がチーマーと関わっていたわけではありません。
しかし、そのようなグループがお金持ちの学校に存在し、そこへ貧しい女の子が入ってきたら面白いのではないかと考えたことが、『花より男子』の発想につながったそうです。
華やかな少女漫画の世界と、当時の渋谷の若者文化が意外なところで結び付いていたのです。
最終回どころか数話先までしか決めずに描いていた
『花より男子』は長い物語なので、最初から大まかな結末が決められていたようにも思えます。
しかし、神尾葉子氏の作り方は正反対でした。
神尾氏によれば、連載中に考えていたのは基本的にその先3~4回程度で、最終的な終わり方も決めていなかったそうです。
作者自身にも先が分からないほうが読者にも展開を読まれにくく、自分も楽しんで描けると考えていました。
さらに連載開始時には、担当編集者から「人気がなければ6回で終わる」と言われて始めた記憶があるとも神尾氏は振り返っています。
その作品が結果として12年間続き、全37巻という大作になりました。
花沢類が本来のヒーローだったことも、道明寺が主役になったことも、つくしが道明寺を選んだことも、最初から敷かれた一本の道ではありません。
先を決めすぎず、登場人物が変化していくままに物語を進めたからこそ、現在の『花より男子』が生まれたのでしょう。
花より男子の裏設定まとめ
『花より男子』最大の裏設定は、現在では当たり前に思える「つくしと道明寺」という組み合わせが、最初から予定されていたものではなかったことでしょう。
本来のヒーローは花沢類で、道明寺は悪役として登場しました。
それでも物語を描き続けるうちに道明寺が一途な人物へ成長し、作者が花沢類へ戻そうとしても、つくしは道明寺へ向かっていきます。
さらにF4は本来F5で、全員がお菓子に関係する名前になる予定だったなど、制作スケジュールによって偶然生まれた設定も少なくありません。
タイトルの「花より団子」が花沢類より道明寺を意味していたという説まで作者本人に否定されていることを考えると、『花より男子』は緻密に結末から逆算して作られた作品ではなく、登場人物と一緒に成長していった作品だったことがわかります。
最初から決められていなかったからこそ、花沢類にも道明寺にも本当に結ばれる可能性が感じられ、あの三角関係に多くの読者が夢中になったのかもしれません。





















