『アンパンマン』といえば、困っている人を助ける正義のヒーローです。
しかし長い歴史を調べてみると、現在のアニメからは想像できない設定が数多く存在します。
初代アンパンマンはパンの顔ではなく普通の人間だったほか、カレーパンマンが弟として誕生していた時代や、チーズがばいきんまん側から送り込まれていた初期漫画もありました。
さらに、アンパンマンの体が何でできているのかは公式にも分かっていません。
今回は、初期漫画や絵本、公式Q&A、やなせたかし氏の発言などから、『アンパンマン』の意外な裏設定や有名な都市伝説を紹介します。

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初代アンパンマンはパンではなく普通の人間だった

現在のアンパンマンが誕生するより前の1969年、やなせたかし氏は大人向けの童話『アンパンマン』を発表しています。
ところが、ここに登場するアンパンマンは、丸いあんパンの顔をしたヒーローではありません。
少し太った普通の人間の男性でした。
マントを身につけ、世界中の空腹に苦しむ人へあんパンを届ける人物として描かれています。
やなせたかし氏自身も、最初のアンパンマンについて「人間だった」と語っています。
しかも物語は現在の明るい『アンパンマン』とはかなり違い、戦場や国境などが登場する大人向けの内容でした。
「空腹の人を助けるヒーロー」という基本だけを残して、現在のアンパンマンへ大きく変化したのです。
初期漫画のアンパンマンは何も着ていなかった
1976年から『月刊いちごえほん』で連載された漫画版では、さらに意外な姿を見ることができます。
誕生したばかりのアンパンマンは、現在の茶色い服や赤いマントを身につけていません。
連載第1回と第2回では、生まれたままの姿で登場しています。
その後、テレビに登場するヒーローに憧れたアンパンマン自身が、ジャムおじさんに「こんな服がほしい」と頼みます。
こうして作られたのが、現在につながるアンパンマンのコスチュームでした。
現在の設定では「生まれたときから服を着ていた」とされています。
つまり、初期漫画と現在では設定そのものが変更されているのです。
カレーパンマンはアンパンマンの弟だった
現在のカレーパンマンは、アンパンマンやしょくぱんまんと並ぶ仲間として描かれています。
しかし『月刊いちごえほん』版では、はっきりと「アンパンマンの弟」として誕生しました。
忙しくなったアンパンマンがジャムおじさんに「弟を作ってほしい」と頼み、作られたのがカレーパンマンだったのです。
しかも、焼き上がるまで何味のパンになるのかジャムおじさんにも分かっていませんでした。
完成したパンを味見して初めて「カレーパンだ」と判明します。
現在では兄弟という設定は使われておらず、アンパンマンとカレーパンマンは仲間として扱われています。
チーズはばいきんまんが送り込んだスパイだった

パン工場で暮らすめいけんチーズは、アンパンマンたちの大切な仲間です。
しかし初期漫画では、まったく違う立場から登場しました。
『月刊いちごえほん』版では、ばいきんまんがアンパンマンを困らせるために送り込んだ犬だったのです。
つまり、最初はばいきんまん側のスパイに近い存在でした。
ところがパン工場で過ごすうちにバタコさんになつき、そのままアンパンマンたちの仲間になります。
一方、現在のアニメでは設定が変更されています。
テレビ第1話では、森で空腹になっていたチーズをアンパンマンが助け、パン工場へ連れて帰りました。
「チーズは元スパイ」という話は都市伝説ではなく初期漫画では本当ですが、現在のアニメ設定には引き継がれていないのです。
ジャムおじさんとバタコさんは人間ではない
ジャムおじさんとバタコさんは、見た目だけなら普通の人間に見えます。
しかし公式Q&Aには、驚くべき答えが掲載されています。
そもそもアンパンマンワールドには「人間がいない」のです。
ジャムおじさんとバタコさんも人間ではなく、公式では「妖精」とされています。
さらに、ジャムおじさんとバタコさんは親子でもありません。
公式によれば肉親関係はなく、一緒に暮らしているため家族に近い関係というだけです。
人間のような姿をした二人がパン工場で暮らしているため、普通の人間だと思っていた人も多いのではないでしょうか。
アンパンマンの体が何なのか公式にも分からない

アンパンマンの頭があんパンなのは有名です。
では首から下の体もパンなのでしょうか。
実は、この疑問には公式でも答えが出ていません。
公式Q&Aによると、アンパンマンは生まれたときから服を着ており、誰もその下の体を見たことがないそうです。
そのため「何でできているのかは分からない」というのが現在の公式設定になっています。
パンの体なのか、人間のような体なのか、それともアンパンマンワールド独自の物質なのかも明かされていません。
長い歴史を持つ作品ですが、アンパンマン最大の謎の一つは今も残されたままなのです。
交換された古い顔は消えてなくなる

アンパンマンの顔が濡れたり汚れたりすると、ジャムおじさんたちが新しい顔を投げます。
新しい顔が装着されると元気100倍になりますが、ここで気になるのが古い顔です。
地面のどこかへ落ちているのでしょうか。
公式Q&Aによれば、新しい顔に変わった瞬間、古い顔は「消えてなくなる」とされています。
そのため、アンパンマンワールドのどこかに大量の古い顔が転がっているわけではありません。
どのような仕組みで消えるのかまでは説明されておらず、アンパンマンワールドでも特に不思議な設定です。
アンパンマンは食事をしなくても生きていける
アンパンマンは他のキャラクターと食卓を囲むことがあります。
しかし、よく見るとアンパンマン自身が食べている場面はほとんどありません。
これは偶然ではありません。
公式設定では、頭の中に入っているあんこがエネルギー源になっているため、普通の食事をする必要がないとされています。
ちなみに、アンパンマンの中身は「こしあん」ではなく「つぶあん」です。
これも公式Q&Aではっきり明かされています。
つまりアンパンマンにとって頭は顔であると同時に、エネルギーを蓄える場所でもあるようです。
「アンパンマン」という名前は自分で付けた
アンパンマンを作ったのはジャムおじさんなので、名前もジャムおじさんが付けたと思われがちです。
ところが公式設定は違います。
アンパンマンはパン焼き窯から誕生した直後、自分から「アンパンマン」と名乗っています。
つまり名付け親は存在せず、自分で自分の名前を決めたことになります。
ジャムおじさんが計画してアンパンマンを作ったというより、不思議な力によって誕生した存在であることも分かります。
顔を食べさせる設定は大人から批判されていた
今ではアンパンマンを象徴する「自分の顔を分け与える」という行動ですが、作品が作られた当初はすんなり受け入れられたわけではありません。
やなせたかし氏によると、大人から「顔を食べさせるのは残酷ではないか」という意見も寄せられたそうです。
しかし、やなせ氏は「あんパンなのだから食べられるのは当然」という考えを変えませんでした。
むしろ強く反応したのは幼い子どもたちでした。
成長後に「アンパンマンのどこが印象に残ったか」と尋ねると、自分の顔を困っている人へ差し出す場面を挙げる人が多かったと、やなせ氏は語っています。
大人には奇妙に見えた設定を、子どもたちは作品の一番大切な部分として受け止めていたのです。
ばいきんまんの変装がバレないのには理由がある
ばいきんまんは何度も変装してアンパンマンたちをだまします。
しかし角や体形がそのまま残っていることも多く、「どうして誰も気付かないの?」と思ったことがある人も多いでしょう。
これにも公式回答があります。
アンパンマンワールドの住人は「人を疑うことをしない」ため、ばいきんまんの変装にも気付かないのです。
つまり、ばいきんまんの変装技術だけが特別に高いわけではありません。
住人たちが基本的に他人を信じている世界だからこそ成立しているお約束だったのです。
アンパンマンはばいきんまんを完全に排除しようとしていない
アンパンマンは何度もばいきんまんと戦います。
それなら、なぜ一度で完全に決着をつけようとしないのでしょうか。
この関係には、やなせたかし氏の考える「正義」が大きく関係しています。
『アンパンマン大研究』では、アンパンマンとばいきんまんは「光と影」「プラスとマイナス」のような関係だと説明されています。
アンパンマンの目的も、ばいきんまん自身を排除することではありません。
悪さを止めることが目的なのです。
やなせ氏自身も、パンを作るには酵母菌が必要であり、パンと菌は敵でありながら共存する関係だと語っています。
そのため、アンパンマンとばいきんまんの戦いは「正義が悪を完全に消す物語」ではありません。
二つの存在がぶつかりながらも共存し続けること自体が、『アンパンマン』の重要なテーマになっています。
ドキンちゃんのモデルは『風と共に去りぬ』だった
ドキンちゃんとしょくぱんまんの関係には、意外な元ネタがあります。
やなせたかし氏は『アンパンマン伝説』で、ドキンちゃんを小説『風と共に去りぬ』の主人公スカーレット・オハラのような役どころとして登場させたと明かしています。
そして、ドキンちゃんが思いを寄せるしょくぱんまんには、スカーレットが思いを寄せる青年アシュレーの要素が取り入れられました。
ドキンちゃんがわがままで行動力があり、理想の男性であるしょくぱんまんを追いかけ続ける関係には、大人向け恋愛小説の構図が隠されていたのです。
アンパンマン誕生の原点は戦争中の空腹だった
かわいらしいアンパンマンの物語には、やなせたかし氏自身の厳しい戦争体験が深く関係しています。
やなせ氏は戦地で強い空腹を経験しました。
さらに、戦争中には正しいと教えられていたものが、敗戦後にはまったく逆の評価になる経験もしています。
そこから「正義は立場や時代によって逆転する」と考えるようになりました。
しかし、どの国の人であっても、空腹の人に食べ物を渡すことは間違いにはならない。
これこそが、やなせ氏がたどり着いた「逆転しない正義」でした。
だからアンパンマンは敵を倒すこと以上に、困っている人へ自分の顔を差し出すことを大切にしています。
アンパンマンの顔が食べ物になっているのは、単なるキャラクターデザインではなく、作品そのものの思想だったのです。
「アンパンマンのマーチは特攻隊の弟への歌」は本人が否定
『アンパンマンのマーチ』には「やなせたかし氏が戦争で失った弟のために書いた歌」という有名な都市伝説があります。
歌詞の内容とやなせ氏の戦争体験を重ねると、そう考えたくなる部分があるのも確かです。
しかし、やなせ氏本人はこの説について「そんなつもりはなかった」という趣旨を著書『ぼくは戦争は大きらい』で説明しています。
一方で、弟と最後に話した記憶が自分の心の奥深くに残っていた可能性については触れています。
そのため「弟への思いが作品全体に何の影響もなかった」とまで言い切る必要はありません。
ただし、「アンパンマンのマーチは弟や特攻隊のために作った歌」という説明は、作者本人の発言とは異なります。
有名な感動話ほど、事実と考察を分けて考える必要がある例です。
ジャムおじさん黒幕説はあくまでネット上の都市伝説
ネットでは昔から「本当の黒幕はジャムおじさんではないか」という説があります。
アンパンマンの顔を作れるのはジャムおじさんであり、ばいきんまんとの戦いが続けば何度も新しい顔を作ることになります。
そこから「両者を裏で戦わせているのではないか」というマッチポンプ説が生まれました。
しかし、これは公式設定ではありません。
公式ではジャムおじさんはパン作りの名人であり、困った人を助けるアンパンマンを支える仲間として描かれています。
また、アンパンマンとばいきんまんが戦い続ける理由についても、「正義と悪」「パンと菌」が共存する関係としてやなせたかし氏自身が説明しています。
つまり黒幕を用意しなくても、二人が戦い続ける理由は作品の思想そのものに存在します。
ジャムおじさん黒幕説は、長年続く作品だからこそ生まれたファンの遊び心に近い都市伝説と考えるのが自然でしょう。
アンパンマンの裏設定まとめ

『アンパンマン』は一見すると、とても分かりやすい正義のヒーロー作品です。
しかし歴史をたどると、初代アンパンマンは普通の人間であり、初期漫画ではカレーパンマンが弟、チーズがばいきんまん側から送り込まれた存在として描かれていました。
さらに現在の公式設定でも、ジャムおじさんとバタコさんは妖精で、アンパンマンの体が何でできているのかは誰にも分かっていません。
そして作品のもっとも大きな裏側にあるのが、やなせたかし氏の「正義」に対する考えです。
敵を完全に排除することではなく、目の前で困っている人を助けること。
アンパンマンが何十年もばいきんまんと戦いながら、自分の顔を空腹の人へ差し出し続けている理由は、そこにあるのかもしれません。

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