『ルパン三世 カリオストロの城』は、1979年12月15日に公開された『ルパン三世』劇場版第2作です。
そして、宮﨑駿氏にとって初めて監督を務めた長編映画でもあります。
ルパンとクラリスの物語は一見すると分かりやすい冒険活劇ですが、制作背景を調べると、年齢を重ねたルパンという人物設定や、フィアット500の秘密、初代アルセーヌ・ルパン作品から受けた影響など、さまざまな裏側が見えてきます。
さらに時計塔の指輪には、今でもファンの間で語られている有名な考察があります。
今回は公式情報や制作関係者の証言を中心に、『カリオストロの城』の裏設定・制作秘話・有名な考察を紹介します。
※映画終盤までの内容を含みます。
![ルパン三世 カリオストロの城 [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/71wlTHgbWyL._AC_UL320_.jpg)
カリオストロ公国の正式な後継者であるクラリスが伯爵と結婚させられてしまえば、この国は合法的に伯爵の手に落ちてしまう。
偽札の謎を追って、銭形警部、石川五ェ門、峰不二子も難攻不落のカリオストロ城に集結。果たしてルパンは無事にクラリスを救い出し、伯爵の手から公国を守ることは出来るのか! ?そしてカリオストロ公国に眠る莫大な宝とは?
カリオストロのルパンは年齢を重ねた人物として描かれている

『カリオストロの城』のルパンを見て、
「ほかのルパン作品より落ち着いている」
と感じた人もいるのではないでしょうか。
劇中ではクラリスから「おじさま」と呼ばれ、女性を追いかけ回すというより、クラリスを優しく見守る人物として描かれています。
この作品のルパンについては、30代半ばほどのイメージだったと紹介されることがあり、制作当時38歳だった宮﨑駿監督自身とも重なる人物像だと分析されています。
宮﨑監督は、若いころのルパンが高級車や高級品を格好良く使うことに夢中だったとしても、何年も同じ生活を続ければ価値観も変わっていくだろうと考えていました。
そのため『カリオストロの城』では、物や金に執着する若者ではなく、いろいろな経験をしてきた大人のルパンが描かれています。
クラリスとの関係が恋愛一辺倒にならないのも、この人物設定と深く関係しているのでしょう。
黄色いフィアット500は作画監督・大塚康生の愛車がモデル
映画冒頭のカーチェイスから活躍する黄色い小型車。
これはイタリアの「フィアット500」です。
しかも、単にルパンに似合いそうな車を選んだわけではありません。
『カリオストロの城』の作画監督を務めた大塚康生さん自身がフィアット500を所有しており、制作現場にも愛車で通っていました。
大塚さんによると、スタジオの窓から見える場所に車を停め、スタッフが実物を見ながらスケッチすることもあったそうです。
ただし、大塚さんの愛車は薄い水色でした。
映画で黄色になった理由について、大塚さん本人は「思いつき」と笑いながら振り返っています。
つまり、あの有名なフィアット500には、実際の制作スタッフの愛車が強く反映されているのです。
ちなみにクラリスが乗っていたシトロエンにも、宮﨑監督の愛車が重ねられていたことが後年の『ルパン三世』制作関係者から紹介されています。
クラリスの両親が亡くなった火事は伯爵の仕業?
クラリスの両親であるカリオストロ大公夫妻は、物語の7年前に大公の館で起きた大火事によって亡くなっています。
劇中でも園丁の老人が、火事の後は館が廃墟になり、大公夫妻が亡くなってからカリオストロ伯爵が摂政として国を治めていることを説明しています。
そして両親を失ったクラリスは、その後長い間修道院で暮らすことになりました。
ここで昔から語られているのが、「あの火事は本当に事故だったのか?」という考察です。
大公夫妻が亡くなったことで伯爵は国の実権を握り、さらに大公家最後の後継者となったクラリスと結婚すれば、伯爵家と大公家を一つにして国を完全に自分のものにできます。
つまり、大公夫妻がいなくなったことで最も利益を得た人物がカリオストロ伯爵なのです。
そのため「伯爵が火事を仕組み、大公夫妻を排除したのではないか」という説がファンの間で語られています。
ただし、映画の中では火事の原因について一切明かされておらず、宮崎駿氏や制作側が伯爵の仕業だったと公式に発表した事実も確認できません。
伯爵の目的や、その後の展開を考えると非常に怪しく見えますが、真相は最後まで明かされない『カリオストロの城』の謎の一つなのです。
ルパンたちを襲う「カゲ」が中年ばかりなのには理由がある
伯爵の城には、黒い服を着た秘密部隊「カゲ」が登場します。
素早い動きでルパンたちを追い詰める不気味な集団ですが、よく見ると若者らしい人物がほとんどいません。
これにも裏設定があります。
宮﨑監督によれば、人口約3500人という小さなカリオストロ公国では、若者の多くが国外へ出てしまっているそうです。
城は国内でも大きな就職先ですが、若い働き手が残っていないため、「カゲ」も中年ばかりになっているとされています。
単なる敵キャラクターのデザインに見えて、実は過疎化という国の事情まで反映されていたのです。
カリオストロ公国が表面上の美しさとは違い、かなり行き詰まった国だったことも分かります。
ゴート札は各国政府まで利用していた?
ゴート札は、単にカリオストロ伯爵が金もうけのために作っていた偽札ではありません。
ルパンはゴート札について、中世からヨーロッパの歴史の裏で使われてきた謎の偽金だと説明しています。
さらに作中では、ブルボン王朝の破滅に関わり、ナポレオンの資金源となり、世界恐慌の引き金にもなったという驚くべき歴史まで語られています。
もちろん、これは『カリオストロの城』の世界だけの架空の歴史です。
さらに重要なのが、銭形警部がゴート札の工場を発見した後の国際警察でのやり取りです。
各国の代表者は偽札工場をすぐに取り締まろうとせず、「ある国が偽ドルを発注した証拠がある」「偽ルーブルはCIAの発注ではないか」と互いをけん制しています。
つまりゴート札は、伯爵が勝手に世界へばらまいているだけではなく、各国の政府や情報機関まで裏で利用していた可能性が作中で示されているのです。
だからこそ国際警察も簡単にはカリオストロ公国へ踏み込めませんでした。
カリオストロ伯爵の本当の強さは、小国の支配者でありながら、偽札を通して世界各国の弱みを握っていたことなのかもしれません。
「カリオストロ」と「クラリス」は初代アルセーヌ・ルパンとつながっている
『ルパン三世』のルパンは、モンキー・パンチ先生によって生み出されたキャラクターです。
しかし『カリオストロの城』には、モーリス・ルブランによる初代アルセーヌ・ルパン作品を思わせる名前が使われています。
アルセーヌ・ルパンシリーズには、
『カリオストロ伯爵夫人』
という小説があります。
そして、その作品には「クラリス」というルパンと深い関係を持つ女性も登場します。
つまり、
「カリオストロ」
「クラリス」
という名前そのものが、初代アルセーヌ・ルパンへのオマージュになっているのです。
ルパン三世の映画でありながら、祖父であるアルセーヌ・ルパンの世界へさかのぼる仕掛けが入っていることになります。
湖底から現れる古代都市にも元ネタがある
映画の最後。
時計塔の仕掛けによって湖の水が抜けると、湖底から巨大な古代ローマ都市が姿を現します。
金貨や宝石ではなく、カリオストロ公国の歴史そのものが本当の宝だったという印象的な結末です。
このアイデアにも、モーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパン作品とのつながりがあります。
『緑の目の令嬢』には、水が引いた後に湖底から古代の遺跡が姿を現す展開があります。
『カリオストロの城』のクライマックスと非常によく似ており、作品への影響が指摘されています。
つまり宮﨑監督は、アルセーヌ・ルパンという名前だけを借りたのではなく、ルブラン作品に存在する冒険小説らしい仕掛けまで映画の中へ取り入れていたのです。
巨大な時計塔には『幽霊塔』の影響がある
ルパンとカリオストロ伯爵が最後に対峙する巨大な時計塔。
内部には巨大な歯車が無数に並び、時計そのものが迷宮のような建物になっています。
このイメージに大きな影響を与えたのが江戸川乱歩版の『幽霊塔』です。
宮﨑監督は中学生のころに『幽霊塔』を読み、時計塔の複雑な構造や内部の仕掛けに強く惹かれたことを後年明かしています。
2015年には宮﨑監督自身が企画・構成した「幽霊塔へようこそ展」まで三鷹の森ジブリ美術館で開催されました。
『カリオストロの城』だけでなく、宮﨑作品に巨大な建築物や複雑な機械が何度も登場する原点のひとつともいえる作品です。
指輪は左右逆だった?時計塔にまつわる有名な考察
ここからは公式設定ではなく、ファンの間で有名な考察です。
カリオストロ家には、
「金の山羊」
「銀の山羊」
という二つの指輪があります。
ルパンが指輪の謎を調べた場面では、金と銀をある左右関係で持っています。
ところが終盤、ルパンから指輪を受け取った伯爵が山羊の目へはめたときには、その左右が逆になっているように見えます。
ここから、
「伯爵は指輪を左右逆に入れたため、時計塔の危険な仕掛けを動かしてしまったのでは?」
という説が生まれました。
映画本編では、この点について説明されていません。
そのため作画上の都合なのか、本当に仕込まれた謎なのかは分かりません。
もし正しい向きではめていたら別の仕掛けが動いたのではないか、と想像すると非常に面白い場面です。
かなり細かい場面まで見ているファンによって発見された、面白い考察です。
ルパンがクラリスの気持ちに応えなかった理由

ラストでクラリスはルパンに抱きつき、「私も連れてって」と訴えます。
ルパンは一瞬抱きしめ返そうとしますが、その手を止めてクラリスの頭を優しくなでました。
なぜルパンはクラリスを連れて行かなかったのでしょうか。
宮崎駿氏は後に、ルパンとクラリスは「対等な関係ではなかった」という趣旨の話をしています。
さらに、男女が出会ったからといって必ず恋愛関係になる必要はなく、「うまく別れること」も大切だという考えを語りました。
クラリスにとってルパンは、自分を助けに来てくれた英雄のような存在です。
そんな少女の気持ちを利用して、自分の世界へ連れて行くことをルパンは選びませんでした。
抱きしめようとした手を止めるわずかな動きには、中年になったルパンの優しさと大人としての判断が込められていると考えられます。
「本当の財宝は別にもある」という説まで存在する
指輪の左右問題から、さらに発展した考察があります。
それが、
「湖底の古代都市とは別に、時計塔にはもう一つの財宝が隠されていたのではないか」
という説です。
この説が広まる理由のひとつとなったのが、1997年に発売されたゲーム『ルパン三世 カリオストロの城 -再会-』です。
同作では、映画とは違う使い方で指輪の仕掛けへ向き合う展開が取り入れられています。
ただし、これは1979年の映画で宮﨑監督が明言した裏設定ではありません。
映画版だけを見るなら、湖底から姿を現す古代都市がカリオストロ家の大きな秘密として描かれています。
そのため、
「映画の真相」
ではなく、
「後発作品によってさらに広がった考察」
として楽しむのがよいでしょう。
ルパンの声も、いつもより落ち着いた演技を求められていた
ルパンの人物像が普段より大人びているのは、作画だけではありません。
宮﨑監督はルパン役の山田康雄さんに対して、それまでとは調子を変え、クリント・イーストウッドのような抑えた声を求めたと大塚康生さんが回想しています。
山田さんは長年ルパンを演じていたため、当初は新人映画監督だった宮﨑監督から演技について注文されることに反発したそうです。
しかしアフレコ用の映像を見た後、作品の完成度に驚き、宮﨑監督へ全面的に協力する姿勢へ変わったと大塚さんは振り返っています。
映像だけでなく声の演技まで含めて、
「少し年齢を重ねたルパン」
が作られていたのです。
制作期間はわずか4カ月ほどだった
『カリオストロの城』は約100分の長編アニメーションです。
しかもカーチェイス、城への潜入、地下迷宮、時計塔など、非常に複雑なアクションが次々と登場します。
ところが制作期間は驚くほど短いものでした。
宮﨑監督自身が2013年の会見で、『カリオストロの城』を「4か月半で作った」と振り返っています。
大塚康生さんの回想でも、ストーリーライン作成から絵コンテ、作画まで約4カ月という非常に短い制作だったことが紹介されています。
現在でも評価される映画が、これほど短期間で作られたことは驚きです。
宮﨑監督自身も、当時は若いスタッフたちが非常に献身的に制作したから可能だったと振り返っています。
宮﨑駿と鈴木敏夫が出会った作品でもある
『カリオストロの城』は、後のスタジオジブリの歴史を考えるうえでも重要な作品です。
宮﨑駿監督と鈴木敏夫プロデューサーが初めて出会ったのが、この映画の制作中でした。
当時の鈴木さんは『アニメージュ』の編集者。
宮﨑監督へ取材を申し込みましたが、最初は断られました。
それでも制作現場へ通い続けたことで徐々に関係が生まれ、その後の『風の谷のナウシカ』漫画連載、映画化、そしてスタジオジブリ設立へとつながっていきます。
つまり『カリオストロの城』は、
宮﨑駿監督の長編映画監督としての出発点
であると同時に、
宮﨑駿と鈴木敏夫という後のジブリを支える二人が出会った作品
でもあるのです。
ちなみに『カリオストロの城』自体はスタジオジブリ作品ではありません。
制作協力はテレコム・アニメーションフィルムで、トムス・エンタテインメントが現在も作品情報を公式に掲載しています。
まとめ:カリオストロの城は「宮﨑駿作品」の原点が詰まっている

『ルパン三世 カリオストロの城』には、映画だけを見ていても分からない設定や制作秘話が数多くあります。
年齢を重ねたルパン。
大塚康生さんの愛車が反映されたフィアット500。
若いころのルパンとクラリスの出会い。
初代アルセーヌ・ルパン作品から受け継がれた「カリオストロ」「クラリス」という名前や湖底の遺跡。
さらに巨大な時計塔には、宮﨑監督が少年時代から愛読していた『幽霊塔』の影響もあります。
一方、
「指輪は左右逆だった」
「本当の財宝が別に存在する」
といった話は、公式設定として確定しているものではありません。
しかし、映画の細かな描写や後発作品から生まれた考察として非常に面白いものです。
そして何より、『カリオストロの城』は宮﨑駿監督の劇場長編デビュー作です。
後の『天空の城ラピュタ』などでも見られる巨大建築、機械、少女を守る主人公、空間を縦横無尽に使ったアクション。
後の宮﨑作品につながる要素を探しながら見直すと、『カリオストロの城』をさらに楽しめるのではないでしょうか。
![ルパン三世 カリオストロの城 [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/71wlTHgbWyL._AC_UL320_.jpg)
カリオストロ公国の正式な後継者であるクラリスが伯爵と結婚させられてしまえば、この国は合法的に伯爵の手に落ちてしまう。
偽札の謎を追って、銭形警部、石川五ェ門、峰不二子も難攻不落のカリオストロ城に集結。果たしてルパンは無事にクラリスを救い出し、伯爵の手から公国を守ることは出来るのか! ?そしてカリオストロ公国に眠る莫大な宝とは?





















